トラック理論を意識せざるを得なかった日

エマ
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 トラック理論って、ご存知ですか?

 突然ですが、昨日の夜、4WDのクルマに危うく轢き殺されかけました。
 丁度、その日は大学4年の友人達と(学園祭そっちのけで)研究室で飲み会をやっていまして、帰宅する頃には午後9時をゆうに回っていました。

 普段飲まないせいもあって、アルコールも完全に分解しきれないまま、駅のホームを降りて、てくてくと夜道を歩いていた訳です。

 

 自宅の最寄り駅から5分も歩いた所に、ちょっとした交差点があります。完全な十字路ではなく、二つの道路が40度位の角度で交差しあい、さらにはその一つの道路は交差した後にもう一方の道路の方へ近づくように曲がっているため、予備信号が設置されている程に見通しの良く無い場所です。

 その交差点の横断歩道に近づくと、青信号が点滅しかかっている事に気付きました。普段の自分だったらあそこで無理はしなかったと思うのですが、その時は、やってしまったのです。

 急ぎ足で、青信号の点滅が消えかける前に向こう側へ渡りきれると、半分確信したその時、あの見通しの悪い道路から、一台の車が急に右折して飛び込んできました。

 向こうの4WDのカラーは薄暗い紺色。こちらの服も茶と黒で、夜間としては最悪に近い組み合わせです。
 先に相手の存在に気付いたのは、私でした。幸い、人間は極限状態では頭で考える前に体の方が先に動いてくれるようです。察知とほぼ同時に駆け出し、身を投げるようにして私はなんとか、車の突進から逃げきりました。

 その4WDは横断歩道直前で漸く私に気付き減速しましたが止まりきれず、私がそれまで歩いていた場所を数メートル分貫いた所でようやく停車しました。

 道路の端っこで起き上がった私は無心で目の前の歩道へ走り込み、自分を天国か病院送りにしかけた4WDを振り返りました。

 乗っていた運転手も相当驚いていたのか、サイドガラスを開けてこちらを見ています。そして絞り出すように「すいません…」という一言。
 しかし数秒後、その次に彼の口から飛び出た言葉は罵声でした。

「アァ!? ざけんなテメェ!!」

 恐らく、私が彼を思い切り睨んでいたと思ったのでしょう。別に私は睨んでいるわけではなくて、野獣に食いかけられた草食動物さながら、恐怖に目を剥いて相手の顔を凝視していただけだったのですが…。

 まぁ……ガンを飛ばされただけで激高するような、ああいう粗雑なにーちゃんの運転です。実際彼の不注意が大きかったのですが、そもそも青信号が点滅し始めた時点で渡るのを断念しなかった私も(交通規則としても道理的にも)悪かったのです。

 人間が急に避けようとしても、車相手に動けるスピードなどたかが知れています。
 私がいつも、道路を渡る際に左右の確認を複数回行う習慣をつけていたのが幸いでした。それでも、道路の見通しの悪さや夜間帯、双方の暗い色という悪条件で、察知があそこまで遅れてしまったのです。相手の車の動きに気付くのがあとコンマ数秒遅れていたら……と思うと、ぞっとします。

 私の場合、いくら酒を飲んでも(アルコールは回るが)決して“酔えない”性格なのも幸いしました。危機意識ばかりが頭を支配している最近の自分に正直辟易していましたが、こういういざという時に実際役立つなら、まんざらでもないのかもしれません。

 んで、その死の危険に直面した際、恐怖を感じたのかと言うと…。通り魔にナイフで襲われたならともかく、ああいう一瞬の出来事の場合は恐怖など感じている暇もありませんでした。例の罵声も、恐いにーちゃんに罵られるのは中学校から散々経験してきたので別にどうという事はないのですが…。
 こういう瞬間的な危機って、それからしばらくしてから徐々に怖さがこみ上げてくるものですね。

 あの時、もし回避が遅れて自分がいなくなったら……。家族は……自分の大事な人は……大事な物は……。

 トラック理論とは最近ネット上に現れてきた言葉で、要するにそういう事です。企業のリスクマネージメントの一部で、幹部やCEOがもし明日トラックに轢かれたら…。例えばプログラミング言語Pythonは(日本では比較的マイナーですが)すでにあらゆる商用開発現場で使われていますが、もし言語設計者のGuido van Rossum氏がトラックに(別に昨日のにーちゃんが乗ってた4DWでもいいですが)轢かれたら、プログラミング言語Pythonの行く末は? メンテナンスならばコミュニティ全体でなんとかできるかもしれませんが、アーキテクトを失った言語に世界のビジネスが信頼を置き続けるかと言えば…答えはNOでしょう(最近では、PearPCという現在話題のMacintoshエミュレーターの開発者の一人が、列車に撥ねられて亡くなられました)
 あのAppleやMicrosoftも、ジョブズやビルゲイツがトラックに(以下略)したら、そのダメージは図り知れません(実際、PearPCの開発者の方が亡くなった際、「もしジョブズがトラックに撥ねられたら…」という記事がある海外Mac系サイトに掲載されましたが、さすがに不謹慎だというので削除されました)。

 (個人的に)分かりやすい例としてIT系の話を持ち出しましたが、なにも高スキルなギークや一流経営者に限った話ではなく、全国の家庭人や、あらゆる組織、あるいは趣味程度のサークルの主催者だって同じ事です。
 
 ウチも、サイトとしては大した事はありませんが、載せているコンテンツが自分の作品だけならいざ知らず、色んな方が投稿してくださる作品同士が緩やかに連帯し影響を与えつつ、全体として世界観が成長して行く形を取っています。
 ようするに、自分だけのモノじゃないって事です。
 
 自分が管理し続けなければ、この動きは止まります。しがない超内輪サイトですが、それでも楽しんでくれている方が居て、将来、また新しい作品やキャラクターが生まれる可能性がある限り、例の4WDなんぞトラックに轢かれて死ぬ訳にはいかんのです(笑)

 みなさんも、交通事故には気をつけてください。交差点、夜間、雨天、線路付近、油断すると本当に危険です。

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このページは、エマが2004年11月13日 02:14に書いたブログ記事です。

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