盛夏の祝福

「わたしがご主人さまとお会いしたのは、インドでだったんです」

どこから話すか迷ったみさきは、ついご主人さまとのなれそめが口をついてしまい、
あまりにもさかのぼりすぎかとすこしあわてたが、ゴウはなんの不思議さも感じていない口調でうなずいた。

「ほう、するとお前はインドライオンなのか」

それを聞き、安心したみさきは話を続けた。

「はい。そのころはまだご主人さま、小さな子供で……わたしも仔ライオンだったんすけど、そのとき足に棘が刺さって苦しんでたんです。そこにツアーでやってきてたご主人さまが偶然通りかかって。ご主人さまと一緒にいた高校生くらいの女の子はびっくりしてたんだけど、ご主人さまはまだ小さかったから子供でもライオンは怖いってことわからなかったみたいでトコトコやってきて、ひょいって抜いてくれて。あ、そのとき一緒にいた女の子がわたしのオリジナルの方なんです」
「その娘とも再会したのか」
「いえ、その方、たまたま一緒のツアーに参加してただけの方だったそうで、そのときだけご主人さまと仲良くしてらっしゃったそうなんです。だからわたしがその方について訊いたら、名前も知らないんだ、ごめんってご主人さま、申し訳なさそうにしてらっしゃいました」

そのときの様子を思い出し、こちらも申し訳なさそうな顔をするみさきだったが、気を取りなおして話を続けた。

「それでわたし、そのあとちょっとした事故で死んじゃって、ご主人さまのもとへ転生するときを待ってたんですけど、わたしが行く前に成長したご主人さま、ご結婚なさって……」
「そうか……」

守護天使は主人が結婚をしたら転生できない掟になっている。
もともと守護天使が主人たちのもとへ転生するのは、彼らを守り、世話をするためであって、
彼らに配偶者がいようがいまいが関係ない。
だが守護天使たちにとって、これはそれほど簡単に割り切れる問題ではなく、
主人のそばに自分以外の女性がいることに彼女たちの心は耐え切れるものではない。
この掟は彼女たちの心を守るために存在するのだ。
主人に対して「愛している」という言葉を口にすることを禁止する掟も、これに準ずる。
一級守護天使になるほど成長した天使にとって「愛している」という言葉は、
ほかの愛の言葉と違い、麻薬のように彼女たち自身の心をとらえてしまうのだ。
主人のことを想う心が止められず、暴走し、時には狂してしまうほどに。
それだからこそ、彼女たちの本能はその言葉を発した守護天使を前世の姿に戻し、
主人の記憶を自分たちの中から消してしまうのだ。
主人を不幸にせず、自分たちの心を守るために。
よく似てはいるが彼女たちは人間ではない。
心に微妙な差異があるのは当然で、人のそれとすべて同じと考えてはいけない。
めいどの世界の掟は、すべて守護天使とその主人を守るために存在しているのだ。

「しかしそれならばなぜ、お前は主人のもとへ転生してきたのだ」
ゴウは当然の疑問を口にしたが、それにみさきが答えるのには、すこし時間を要した。
「……ご主人さまの奥さま、三年半前、事故でお亡くなりになったんです……」
「……そうか…」
「それでわたし、ご主人さまをお慰めしたくて、元気づけたくて、メガミさまにご主人さまのところへ転生させていただいたんです……」


P.E.T.S & Shippo Index - オリジナルキャラ創作