天使とのゆびきり - パート2

第2話「桃子との誓い。そして……」

 数分後。

「もういいのか?」
「うん……。ありがとう」

 泣き止んだ桃子が、くしゃくしゃになった顔を上げて、少しだけ笑顔になった。
 顔色も幾分か良くなったようだ。

「えへへ、久しぶりに泣いちゃった」
「すっきりしたか?」
「うん。……ねえ?」
「なんだ?」
「もうしばらく、このままでいい?」
「もちろん」

 桃子は俺の胸に顔を埋めて、俺はさらさらな髪を優しく撫でた。
 体からは震えが消えて、顔色もだいぶ良くなっている。
 とりあえずは安心か。

「……なあ、桃子」
「なぁに?」
「一緒に、暮らさないか?」
「えっ?」
「ずっと、桃子と再会してから考えていたんだ。そして、ようやく決心着いた。俺、こっちに戻ってくるよ」

 この地を出てから、いや、美夏との思い出がある場所をずっと避けていた。
 それは甘美な過去でもあり、俺を苦しめる記憶でもあるから。
 楽しい記憶が辛いものに変わるのを恐れていたから。
 でも、不可抗力とはいえこの地に戻ってきて、桃子と再会して、桃子が俺以上に苦しんでいることを知った。
 このままでは桃子の心が壊れてしまう。
 それだけはなんとしても避けなければならない。
 もう、大切な家族を失うのは嫌だから。
 同情じゃなく、純粋にこの娘のそばに居たいと、そう思うから。

「本当?」
「ああ。向こうでの手続きとかでもうしばらく掛かると思うけど、それさえ済ますことが出来れば一緒に暮らせるよ」
「もう、居なくならない?」
「居なくならない。桃子のそばにいるよ」
「お兄ちゃん……ありがとう」

 互いに顔を見合わせて、それから強く抱き締めあった。
 と、そのときだった
 ピカーー

「な、なんだ?」
「眩しい!」

 突然、サキミがプレゼントしてくれた腕時計が眩しく光った。
 あまりの凄さに目も開けてられないぐらいに。
 ただ、桃子の体を強く抱き締めてやるぐらいしか出来なかった。
 それからしばらくして光が弱くなり、やがて収まった。

「な、なんだったんだ?」
「うぅ……」

 視界が戻ってきて、ひとまず自分と桃子の身に何も起きてないか確認する。
 それから周囲を見回す。

「あれ?」

 リビングのソファに、さっきはなかった物がそこにあった。
 いや、物ではない。

「女の、子?」
「だな。しかも、パジャマ姿だ」

 身長はサキミよりも少し上ぐらいの女の子が仰向けで寝ていた。
 つい先ほどまでは居なかったから、光と共に現れたと断定する。
 本来であればそんなことはないのだが、状況としてはそれしかなかった。

「はやや〜」

 女の子はこっちに向かって寝相を変えた。
 よほど寒いのか、体が震えていた。

「……お兄ちゃん。私、幻覚、見てるのかな?」
「だとしたら、俺も同じのを見ていることになるな」

 あどけない少女の顔。
 その顔は、昔よく見た顔。
 そしてもう、写真と思い出の中でしか見られない顔だった。

「美夏、お姉ちゃん、だよね?」
「ああ。美夏、だな。しかも、死に別れたときと同じ姿だ」

 最後に見た美夏の姿、そのままの少女。
 俺と桃子は、しばらく呆然とするしかなかった。

<続>


Otogi Story Index - シリーズ小説 - 天使とのゆびきり