死の先に在るモノ

第6話「偽装者」(ライアー)

ゲリラ根拠地、鳥小屋の中にて……

「シンシア、君にはこいつらの面倒を見てもらいたい」

カルロスの言葉に鳥小屋の中を見まわすシンシア。
本来シンシアは明るく活発な子だったのであろう。
完全に心の傷が癒える事は無いであろうが、それを乗り越えようと頑張るひたむきさ、強さを持った芯のしっかりとした子だった。
また相当な動物好きだったようで、同じ動物好きなカルロスには心を許していたようであった。
帰り道、カルロスはシンシアをゲリラの一員として扶養する条件が「鳩の世話」である事を告げた。
小さな女の子でもできる仕事という事で選択したのであるが、シンシアには願っても無い事だったらしい。
二つ返事で引き受けたのである。

「鳥が……いっぱいいるね」

その言葉にやや誇らしげに答えるカルロス。

「ああ、こいつらは俺の自慢の伝書鳩達だ」

目を輝かせ小屋を見渡していたシンシアは、端にいる何かを見付けていた。

「あら? この子……」

一羽の雛鳥と目があった。その雛鳥をじっと見つめるシンシア。
一方のその雛鳥もシンシアをじっと見つめ返していた。

「ああ、そいつの親鳥は政府軍の奴等に撃ち殺されてな……それ以来、そいつはどうも人間不信になっているみたいなんだ。だから、そいつには近付かないほうが……ん?」

シンシアはその雛鳥を掌に乗せ、はっきりと宣言するように、懇願するように叫ぶ。

「あたしが……この子のお母さん代わりになる! だから……だから、見捨てないであげて!」

カルロスは驚いてシンシアと雛鳥を見比べる。
その雛鳥はカルロスでさえ、触れようとしただけで威嚇されるので手が付けられなかった『問題児』だったのである。それが、シンシアの手の中で、彼女に身を任せていたのである。
驚きはしたが、彼女の境遇を慮って了承する。
少しでもシンシアの心の傷を癒やす手助けになれば、と……
また、この雛もシンシアが世話をすれば伝書鳩として働いてくれるかもしれない……
このまま衰弱死させてしまうのは忍びない……そういった思惑もあった。

「ありがとう! でもこの子、まだ名前無いんでしょ? だったらあたしが付けてあげる」

しばらく考えていたが、何か思い付いたようだ。

「この子の名前は『レオン』! 本当の名前は『レオナルド』だけど『レオン』のほうが、呼び易いし強そうでしょ?」

カルロスは微笑みながら答える。

「ああ、いい名前だな」

だが、本当の名前『レオナルド』の由来を知ったら、カルロスはどんな気分になっただろう?
殺されたシンシアの母親が身篭っていた……産まれる事のできなかった弟に付けられるはずの名前だったという事を……
 
 
>現在
まあ何だ……かなり出来すぎ、って気もしないでは無いが……
『レオナルド』ってのが俺の本名だ。
もっとも、そう呼ばれても俺であるような気がしないが……
 
ご主人様と初めて出会った時、運命の人と巡り合えた事を感じたんだ。
この人が俺のご主人様なんだ……この人と出会う為に俺は産まれてきたんだ……ってな。
そう臆面も無く言えるが、それがその時からの正直な気持ちだ。
思えば、似た者同士だったんだな。親を同じ様に殺された……
ご主人様には本当に感謝しているぜ。本当に……いくら感謝しても足りないくらいだ。
8歳の女の子がだ、それこそ寝る間を惜しんで世話してくれたんだ。
単に世を拗ねていただけの雛鳥をな……


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