死の先に在るモノ

第6話「偽装者」(ライアー)

その日、カルロスは少人数の部隊で偵察任務をしていた。
別のゲリラの根拠地付近に展開中であった政府軍の偵察を終え、既にその結果を伝書鳩で根拠地の味方に伝えていた。
あとは自分達3人が帰還するだけ……となった時、ある村落を見つけた。

『その行為』が行われてからまだ時間が経ってないのか、むせ返るような臭いに満ちていた。
本来ならばそこで生活していたであろう村人達に、動く者は唯の一人もいない……
随所に点々と大きく広がっている血溜まり……
村人達やその家畜だけでなく家々の壁面、それらに刻まれた弾痕……
さらに崩れ落ちた家々……中には今だに黒煙を上げてくすぶっている家もある。
この村で何が行われたかは一目瞭然であった。
死の臭いが村中を満たし始めていた。

「……酷ぇ事しやがる……政府軍の奴達め……」

カルロスがうめくように、腹の底から絞り出すように言う。
状況の推測は簡単であった。暴行や略奪が目的だったのか、殺戮と破壊そのものが目的だったのか……今となってはどちらとも言えないが……
ゲリラを匿っている・あるいはゲリラの一味・ゲリラと内通している……国全体がこんな状態では、いくらでも言いがかりをつけられたのであろう。
非道な行為をした政府軍への怒りは当然ある。
だが、これは今のこの国では『よくある事』なのである。
このような事を平然と行う政府は早急に潰さねばならない……そう改めて決意を誓い合い、カルロスとその部下達は犠牲者の為に祈りを奉げる。

祈りを捧げていたカルロスは顔を上げ2人の部下に指示を出す。

「弔ってやらんとな。キースは穴を掘れ。俺はこいつと死体を集める」

カルロスからその言葉が出て来た事について、穴掘りを命じられた、キースと呼ばれた部下は半ば予想していた。それでも反論せずにはいられなかった。

「しかし隊長、我々は単なる偵察部隊です。このような場所に留まって政府軍や敵対組織にでも発見されたら、ひとたまりもありませんが……」

キースのその言葉をカルロスは撥ね付け、強い調子で言い切る。

「承知の上だ。このまま村人達を獣の餌にさせてしまうつもりか? だったら、せめて俺達が埋めてやるべきじゃないか?」

キースはその言葉を予想していたのか、あっさりと了解する。

「了解いたしました。隊長がそこまでおっしゃるのであれば、何も言いません」

これまでの付き合いから、この様な場合のカルロスはかなり強情になる事は理解していたのだ。

早速、キースは一本の木の下に穴を掘り始める。
失礼かとも思ったが、道具は村人の物を拝借している。
その間に、カルロスともう一人が村人の死体を集める。人手と時間が無いので、引きずるような感じになってしまったが……
黙々と作業を続ける3人。
と、そこへ死体を集めていた部下が声を掛けてくる。

「隊長! 息がある者がいました!」

カルロスが駆けつけて見ると、母親と思われる女性に押し潰されるような感じで一人の少女が気を失っていた。母親が庇った為か、少女に外傷は無かった。

「他の死体の運搬は一通り終わりました。あとはこの遺体で終了です」
「そうか……ご苦労だが持っていってくれ。俺はこの子を介抱する」

部下に母親の死体を退かせ、カルロスは少女の頬を軽く叩く。

「おい、起きろ。起きるんだ」

何度かその行為を繰り返すと、少女の眉が微かに動く。

「う、う、ん……あ、あなたは……?」

寝起きのような怪訝な表情をしていた少女は、カルロスの背負っている銃を見て凍り付く。
そして思い切りカルロスを突き飛ばす。不意を突かれたカルロスはそのまま突き飛ばされ、尻餅を付く。
驚きながらも。起き上がった彼が少女の顔を見る。その顔は恐怖に引きつっていた。

「い、い、いやあぁぁぁぁぁぁ!!」

混乱して泣き叫ぶ少女を宥めようと、銃を放り出して説得にあたる。

「落ち付け! 俺達は味方だ! この村を襲った政府軍と敵対している者だ!」
「……ミ、カ、タ?」
「そうだ、キミを助ける為に来たんだ!」

カルロスは咄嗟に少女を安心させる為の嘘を言った。
だが、少女はそれを信じたのか、大人しくなる。

「ご、ごめんなさい……突き飛ばしたりして……」
「気にしていないさ」

しゅんとなっていた少女は次の瞬間、何か弾かれたように辺りを見廻す。

「そ、そうだ、ママは?」

その言葉にカルロスは沈痛な面持ちで首を横に振る。
何となく意味が解ったのか、絶句する少女。

「う……そ……」

カルロスは少女を即席の共同墓地に連れて行く。
土が被せられていく親・兄弟・友人を含む、村人達……
少女は、それを瞬きもせず、微動だにすらせず見つめていた。
十字を切って祈りの言葉を呟いたカルロスは遠慮がちにではあるが、少女に声を掛ける。

「……俺達と、来るか?」

カルロスの問いかけに、しばらく村人達の即席の共同墓地を無表情で見つめていた少女は、微かに、ゆっくりとうなずく。

「名前は……なんと言う?」

少女は極小さな……かすれた声で、こう言った。

「シンシア……」

 


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