死の先に在るモノ

第6話「偽装者」(ライアー)

>28年前
ご主人様の世話のお蔭で、衰弱しきっていた俺は見る間に回復していき、順調に育って行った。
それと平行して、伝書鳩としての訓練も行われるようになった。
それはかなりキツイ訓練だったが、俺はご主人様の喜ぶ顔が見たいが為にそれに耐えた。
カルロスの言によると、自慢じゃないが俺はかなり良い素質の持ち主って事だったらしい。
そして、俺の初めての任務が決定した時……ご主人様は我が事のように喜んでくれたよ。
その任務は定時の偵察だった。偵察に出るついでに、俺に任務を慣れさせようという思惑だったのかな。
初任務、俺は予定通りにカルロスの手から飛び立った。そこから、ご主人様の待つ根拠地へ真っ直ぐに帰れば良かった。結果としては初任務は無事にこなせたんだが……
ここでちょっとした予定外の事が起きた。
一羽の鳩と俺が鉢合わせしたんだ。そいつは俺が敵対する者だってわかっていたのか、何度か体当たりをしかけてきたな。無論、そんな妨害には痛痒を感じなかった……と言うより、そいつが妨害に不慣れだった、って事だな。
妨害が不調に終わると威嚇するかのように旋回し、奴の根拠地の方角へ消えていった。そう、奴はハリーだった。こんな些細な事だったが、ハリーが消えた方角から底知れない悪意を感じた事を覚えている。

これは後に……『特務機関フェンリル』に配属となってから知った事だが……俺の所属するゲリラは新たな資金源として麻薬を栽培する事を決定していた。
そして同時に、新しい種類・成分の麻薬を完成させていた。別名『魔薬』なんて仰々しい呼び名からも想像されるように、今まで以上に中毒性と習慣性が高い、ろくでもない代物だったらしい。
その情報を掴む為に政府軍だけでなく、他の麻薬組織が偵察部隊やスパイを送り込んで来ていた。
一方で、そんなヤバイ薬を作れば真っ先に目を付けられると言って反対する幹部、また麻薬の栽培その物に対して強硬に反対する幹部もいた。その反対派の筆頭がカルロスだった。

元々カルロスは政治家を目指していた。少々理想主義的な部分もあったが。そんなカルロスにとって、たとえ憎むべきA国の国民であっても麻薬で汚染させる事は……許容範囲を大幅に越える、決して選ぶ事のできない選択肢だったのだろう。
それ以前に、この国を麻薬で汚染させたくない、それがカルロスが政治家を目指したきっかけだったのかもな。今となっては真相は闇の中だが。その議論は平行線を辿った。板挟みになった長が最終的に下した結論は、麻薬は従来のコカイン・ヘロインといった物のみにして『魔薬』は封印する、と言う物だった。
明かに折衷案だが、両派にとって不満が残る決定であった。この時、悲劇の導火線に火が付いたと言っても過言では無い。だが神ならぬ身にあんな結末が予測できただろうか?
そして、運命のあの日を迎えた……


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