死の先に在るモノ

第5話「圧政者」(タイラント)

着飾った男女が談笑している。
一方で、額を寄せ合い密談しているかのようなグループもいる。
それらの人々の共通点を探すとしたら、伝説上の怪物・妖怪の扮装をしている事であろうか……
その中に、平均年齢を大幅に下げそうな一組の男女が、壁際に佇んでいた。

サキ「……レオン……一つ聞いていいかしら……?」
レオン「な、なんだ?」
サキ「……この扮装……あなたの趣味かしら……?」
レオン「気に入らないのか? 俺はサキにピッタリだと思って選んだんだが……」
サキ「……そうは言ってないけれど……」
レオン「オペラ座の怪人『ファントム』それがその名前だ」

レオンの返答には、小さく溜息で答える。事実上の容認・諦念であった。
そして口に出したのは「この場」の主に対する愚痴とでも言うべき物であった。

サキ「……ここのご主人……何故『ハロウィンパーティー』など……今がどんな状況か……」
レオン「そう言うな。こんなパーティーが行われたからこそ俺達が易々と侵入できたんだからな」

 

サキ・レオンのいる、ここは南米の小国であるラグリア国……
主要な産業は農業と鉱業、人口の10%が国民所得の90%を保有。
以前は前政権軍と多数の反政府武装組織とが群雄割拠していたが、ここ数年で急速に力をつけたある組織がほぼ全ての国土を制圧、残る有力な反政府勢力は遂に2・3を数えるのみとなっていた。生き残った反政府勢力は大同団結をして辛うじて抵抗を続けているが、実態は寄せ集めの烏合の衆であったので、統一も時間の問題だと思われている。
ここまで支配を拡大できたのは、やはり国民が長年の戦乱を倦んでいたという事が大きい。
事実、この組織はそれまでの戦闘に付き物であった暴行・略奪の類を厳禁させていた。それを犯した物には例外無く死が与えられた。それゆえ、この組織の支配地域では治安が格段に良くなり、中には進んで帰順する地域もあった。……が、ささいな事で治安警察に射殺されるような事態が頻発するに至って、この組織が実はとんでもない、力の信奉者であった事に気付かされたのである。
そして、ほぼ全土を支配した段階で、今までの施政をがらりと変え、力による恐怖政治を始めたのである。
政府は圧政により国民を搾取、また反対者や言論の自由を求める活動家は容赦無い弾圧がされた。
だが、それでも曲りなりにも平和をもたらした・・・それが息詰まる、仮初めの物であったとしても……政府軍と反政府ゲリラとの戦闘が絶えない時代には戻りたくはない、という国民の思いが、辛うじて平和を維持させていた。
 
サキとレオンは、実質的にこの国を支配する政府の最高指導者「将軍」と呼ばれている男、その屋敷で行われていたハロウィンパーティ、それに潜入していたのである。


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