死の先に在るモノ

第5話「圧政者」(タイラント)

~回想シーン~

天界裁判所第二調査部・分室と表向きは呼ばれている場所、特務機関本部フェンリル本部、その一室……
レオンとセリーナがテーブルをはさんで向かい合っている。
レオンは憤然と、セリーナは冷然と、実に対照的ではあるが……

レオン「今……サキがどんな状態だか、解ってて言っているのか?!」
セリーナ「残念だけど、その通りよ……でもあなた達しか派遣できる者がいないの。それに……」
レオン「それに?」
セリーナ「サキに話したら二つ返事で引き受けてくれたわ。
     囮と荷物持ちくらいならできる、とか言ってたわね」
レオン「なんだって!? ……サキの奴……」

レオンとセリーナの間のテーブルには、資料と思われる数冊の本と地図、そしてクリップボードに挿まれた書類が置かれている。

セリーナ「まずこの地図を見て」
レオン「ん? ……!! こ、これは……」
セリーナ「そうよ。なんであなたがこの任務に相応しいか、理解できたでしょう?
      では正式に指令を下すわ。
      主任務は『捕獲・送還』目標の詳しいデータはそれに書いてあるわ。
      そしてタイムリミットまでに『捕獲』できなかった場合……『消去』任務に変更になるわ。
      何としても、守護天使の存在を貪欲な人間に……
      特に権力者には知られてはならないから……」
レオン「確かに、俺に適任だな……任務、了解した」

様々な想いを込め、レオンは答える。
満足そうにレオンの返答を聞いていたセリーナは一転、心配そうな顔になる。

セリーナ「でも時間が無いから注意して。もしダメだったら、最悪、目標を見捨てても構わないわ。
     こんなのとあなた達と引き換えでは、到底収支のバランスが取れないもの……
     あ、もちろんロイ司令にはバレないようにね」

~回想終了~
 

レオン「サキ……」

レオンはサキを気遣うように声をかける。

サキ「……私は……平気……」

レオンは、サキが任務に忠実で自分に厳しく、また言い出したら聞かない性格である事は解り切っていた。
それでも、気が気でなかった。

レオン「やっぱ、俺だけで任務を続行して……お前は少しでも休んだほうが……」
サキ「……駄目よ……タイムリミットは……今日から明日に……日付が変わった……
   ……その瞬間……でしょう……?」
レオン「ああ、解ってる。俺が調べたんだからな。しかし……10日も昏睡状態が続いたお前が……
    休息も無しでこんな任務に駆り出され……
    ……はっきり言うぞ。今のお前はこうして立って会話をしているだけでも相当にツライはずだ」
サキ「……無理は……承知よ……今を逃したら……『捕獲』任務を……遂行できる……
   ……状況では……なくなるわ……」
レオン「サキ……」
サキ「……それに……これ以上……彼女に罪を……重ねさせる……訳には……いかない……
   ……でも……テレポートが……使えないのは……痛かったわね……」
レオン「ああ……こんな状況だとは正直思わなかったぜ。やれやれ……」

屋敷のあるここ首都からその近郊……半径100kmくらいに大規模な「テレポートを無効化する結界」が張られていた。当然人間には気付かない。また、テレポートで中に入る事ができても、外に出ることができないのである。要するに、国境を越えなければテレポートが使えないという事である。
そして、その結界を張った者……その「消去」(イレイズ)も二人の任務に自動的に追加されていた。

レオン「だが多分大丈夫だ。俺に任せてくれ。逃走経路の当てはある」
サキ「……そうなの? ……頼りにしてるわ……」


Otogi Story Index - シリーズ小説 - 死の先に在るモノ