死の先に在るモノ

第5話「圧政者」(タイラント)


サキ「やめてえええええええええええええ!!!!」

絶叫と共に目を覚ますサキ。
気が付けばそこは、特務機関宿舎の自室のベッドの上であった。
窓からは柔らかい光が差し込んで来ている。
だがそのような情景を感じ取る余裕は、今のサキには全く無い。
冷や汗と脂汗で体中がぐっしょり濡れている。
荒い息をつきながらも、シャワーを浴びようとして、ベッドから起きようとする。ところが、猛烈な倦怠感に体中を支配されたかのように力が入らない。それでもどうにか半身を起こす。
と、全身に凄まじい激痛が走り、そのまま再びベッドに倒れ込む。
頭の中に靄がかかったように、はっきりしていなかった意識が……急激に現実へと引き戻される。

サキ「……あ……ああ……」

様々な激情が押し寄せ、同時に強烈な悪寒が体中を駆け巡る・・・
サキは声にならない声を上げ……
身体は小刻みに震えていた……

 

数時間後……シャワー室……
シャワーから火傷しそうな程熱い湯がサキに降り注いでいる。
この時になってようやく、サキは腹部に鈍い痛みを感じた。
見ると、闇のロードに強打された腹部に大きな痣ができている。
真の力を解放してからの事が、段々と、おぼろげに思い出されて来た。
サキの心に、ようやく教え子達を護る事ができた達成感・充実感が出てきた。それは今までの任務では、決して味わう事のできなかった、心地の良い物であった。
だが、それ以上にサキの心を占めていた物は……恐怖心……
たまらなく……自分自身が怖かった……
……また、自分を見失うのではないか……
……また、大切な人を失ってしまうのではないか……
そんなサキに追い討ちをかけるように、脳裏に悪夢がフラッシュバックする。

「……死神め!」
「……死神め!」
「……死神め!」

サキ「……私……死神じゃ……ない……」

弱々しくつぶやきながら、頭を抱え、床にへたり込む……
そんなつぶやきを無視するかのように……
熱湯のようなシャワーが……容赦無くサキの肌を打ち付けていた……


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