夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.16「天使のスプリングピクニック」

休憩室のドアを閉めた光彦は、濡れた服が体温を奪っているという観点からまずひとみの服を脱がせ、ショーツだけを身につけた状態にした。そして、タオルでよく拭いて、体に付いた水分を取った。だが、

ひとみ「寒い…寒いよ…。」

ひとみの体の震えは止まらない。
途方に暮れた光彦は、ついに最後の手段に出た。
自らもパンツ一丁の格好である光彦は、ひとみを布団に寝かせ、そして自身も布団の中に入った。
そして、背後からひとみにそっと抱きつき、体を密着させた。

(こうして暖めていれば…頼む、よくなってくれ!)

やがて、光彦の願いと熱が通じたのか、ひとみの体の震えは止まり、安らかな寝息が聞こえてきた。

(よかった…。)

光彦は、ほっと胸をなで下ろした。だがひとみから離れる事はしなかった。
しばらくして、ひとみが目覚めた。

ひとみ「あれ、あたし…。確か池に落ちて…。」
光彦「おお、気がついたか!」

ここで、ひとみは、自らが裸で、光彦の肌と触れあっている状態である事に気がついた。

ひとみ「な、なぜ裸…?」

そう言うと、ひとみは光彦を突き飛ばし、布団の 横で両手で胸を隠してうずくまった。

ひとみ「あ、あたしに何をしたのですか?」

ひとみが不安そうに訊ねると、光彦はばつが悪そうに答えた。

光彦「ごめん。体を暖めるのにこれが効く、って聞いていたものだから…。別に他意はないんだ。
   ただひとみによくなってもらいたくて…。」
ひとみ「あたしのために…?」
光彦「まあ、そうだね。」

この光彦の言葉を聞き、ひとみは自らの認識を恥じた。そして心の底から光彦に感謝するのであった。

ひとみ「あ、ありがとうございます…。」
光彦「なんのなんの。」

とその時、

あすか「遅れて…すみません…。」
まゆり「お洋服を探すのに手間取ってしまって…。」
みゆう「でも頼まれたものは買ってきたよ。」

買い物組の三人が帰ってきた。

光彦「ご苦労さん。じゃあ後は任せるよ。」

そう言うと、光彦は服を着て休憩室から出た。
中では、光彦の所業がどうのなど、何か色々話し合われていたようであったが、やがて四人が出てきた。
ひとみが着替えとして着た服は、清純さを強調した感じの白いワンピースであった。

光彦「お、なかなか可愛いじゃないか。」
ひとみ「あ…ありがとうございます…。」
みゆう「でも男の子が女装してるみたい。」
ひとみ「そんな言い方はひどいじゃないですか!」
光彦「まあまあ。でもそういうやりとりができるなら大丈夫だね。良かった良かった。」

かくして、ひとみは完全回復を果たした。だが、五人はこれ以上遊ぶ気にはなれず、花見を終了させて帰る事になった。

ひとみ「何か…スースーして…不安です。」

ひとみは慣れないワンピースを着たせいで、もじもじしながら歩いていた。

みゆう「ひとみちゃんはスカート履き慣れてないもんね。キヒヒ。パンツ見ちゃおっかなー。」
ひとみ「やめて下さい!そう言うみゆちゃんはどうなんですか。」
みゆう「あたしはレディーだもーん。スカートなんか平気だもーん。」
ひとみ「うーっ。」
まゆり「まあまあ。」
あすか「ケンカは…よしましょう…。」

そんな四人の掛け合いを制する形で、光彦は話し出した。

光彦「まあ、色々あったけど、今日お花見できてよかったよ。桜もきれいだったし、何より輝く四つの大輪の花の
   そばにいられたんだからね。」
まゆり&あすか&みゆう&ひとみ「?」
光彦「あー、もう分からない人達だな。大輪の花、ってのは君達のことだよ。」

柄にもないキザなセリフを吐いてしまった光彦は照れていた。
そして、このような歯の浮く言葉でほめられたカルテットの四人もまた照れていた。

あすか「…そんな…。」
ひとみ「照れます…。」
まゆり「恥ずかしいですわ。」
みゆう「…でもうれしい。」

満開の桜の花よりも鮮やかなピンク色に頬を染める五人であった。

おわり


花見、というのはありがちなイベントの中では結構カルトな部類に入るものと思われます。
また、ボートを話の中で出したのは、「公園に行く機会は意外と少ないのでは?」と思ったからです。


Otogi Story Index - シリーズ小説 - 夢追い虫カルテットシリーズ