天使とのゆびきり - パート2

第3話「幸せの最後の朝と少女の正体」

 俺たちは揃って夢を見ているんだろうか?
 だとしたら、これほど性質が悪くて甘美な夢はないだろう。

「はや〜」
「お姉、ちゃん?」
「だな」

 突然、俺と桃子の前にパジャマ姿で気持ちよく眠る女の子が現れた。
 しかも、俺たちが最後に見た美夏の容姿のまま。

「どういうこと? なんで、死んだはずのお姉ちゃんが……」
「……守護天使」
「えっ? 何それ」
「俺もよくわかってないんだ。ただ、この場面で考えられる可能性がそれなんだ」

 美夏は死んだ。
 おぼろげながら、美夏と秋子の葬式と火葬された場面は覚えている。
 そのときに、俺は確かに美夏の骨を拾った。
 そっくりさんが居たとしても、ここまで同じ容姿はありえない。
 何より、この少女から感じる雰囲気が美夏と同じなのだ。
 以上の理由から、この少女がサキミと同じ守護天使と関連つけるのが自然。

「とりあえず、気持ちよさそうに寝ているところ悪いけど、起きてもらおうか」
「うん……」

 俺は桃子から体を離して少女に近づく。
 近づくと、ますます美夏に似ていた。

「お兄ちゃん、手、震えてるよ」
「……本当だ」

 桃子に言われて自分の右手を見たら、小刻みに震えていた。

「大丈夫?」
「ああ。大丈夫」

 強がってはみたが、徐々に気分が悪くなってきた。
 自分でもすごく緊張しているのがわかる。
 早く起こしたほうがよさそうだ。
 ゆさゆさ。

「はやや〜〜」

 結構強く揺すったのだが、少女は呻き声?みたいなのを発しただけで、起きる気配はなかった。
 この辺りも、美夏とそっくりだ。

「起きないね……」
「……アレをやるか」
「アレ?」
「桃子もよく起こされたやつだよ」

 美夏が生きていたときに、キスと同じぐらいよくやっていた起こし方がある。
 だが、現物は持っていないから、代わりに手でやることにする。
 むぎゅ。

「はや〜」
「あ、それね」
「洗濯ハサミがあれば使っていたんだけどな。今はこれだ」

 震える右手で少女の頬を伸びるだけ伸ばした。
 これでほぼ100%起きる。
 そして、数秒後。

「痛いですの〜」

 懐かしい声が、少女から漏れた。
 同時に俺は少女から手を離す。

「何ですの〜? って、はやや?」

 眠そうに目を擦った少女は起き上がり、俺たちを見て固まった。
 それから数分後。

「ひろ、くん? もも、ちゃん?」
「お姉ちゃん、なの?」
「美夏、なのか?」

 桃子はともかく、俺のことをひろくんと呼ぶ人間は美夏以外に居ない。
 いくら外見が似ていて、守護天使だとしても、ひろくんと呼ばない。
 だから、この少女は美夏でしかない。

「ひ、ひろく〜〜〜〜ん」
「うわっと」

 少女は目に涙を浮かべて俺に抱きついてきた。

「ひろくんですの。ひろくんですの〜」
「美夏、なんだな」
「はいですの。美夏ですの〜〜」

 瞬間、俺の中で感情が弾けた。

「美夏!」

 俺も少女を強く抱き締めた。

「お姉ちゃん!」

 桃子も少女に抱き着いて、しばらく3人で泣いていた。
 
<続>


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