死の先に在るモノ

第3.5話・断章「敵対者」

特務機関本部・・・看板も無く、目立たない場所にある建物・・・
表向きには「天界裁判所・第2調査部」と呼ばれているが、
一部の者にのみ、その正体は明かされている。
その<司令室>と書かれたドアを一人の女性が激しくノックする。
中からの「入りたまえ」の声を聞くと同時に勢いよく開ける。そして開口一番、

女性「司令!聞きましたよ!また無用な挑発を・・・」

奥の司令のデスクに座っている特務機関司令、イグアナのロイへと言葉を投げかける。
司令と呼ばれた男は、いかにも面倒くさそうに、それでいながら愉快そうに答える。

ロイ司令「ふん、小物の相手も楽ではないな」

それを聞いた女性は、呆れたようにようにたしなめる。

女性「どこで誰が聞き耳を立てているか判りません。自重してください」
ロイ「何も問題は無い、セリーナ君。ここは<清掃>済みだ。
   あんな見え透いた挑発に乗るような小物が部長クラスとは・・・
   D.F.も落ちたものだな・・・」

D.F.警備部長は、お世辞にも有能とは言い難いが・・・彼の名誉の為に弁護すると、
要するに、現場からのたたき上げで管理職になったというタイプである。
だから、理想と情熱が完全に空回りしている状態である。
また、今回は主に彼の部下が多数犠牲になっている事も彼の冷静さを失わせる原因になっている。
癇癪(かんしゃく)持ちであるが、人情家で大酒飲みで実直な警備部長、
常に冷静、非情で、ストイック(禁欲的)で権謀に長けたロイとは水と油の関係である。

ロイ「それより、あの者はどうした?」
セリーナ「情報はリークしました。司令の言う『生餌』に食い付くでしょうが・・・
     本当によろしいのですか?
     こう言うのも何ですが・・・わざわざ襲わせてそれを助け、恩を売るなんて・・・」
ロイ「全ては予定通り・・・大いなる理想の実現に多少の犠牲は付き物なのだよ。
   まさか、怖気付いたのかね?」
セリーナ「い、いいえ!決してその様な事は・・・!」

ロイはセリーナを探るような目付きで見ていたが、比較的あっさり視線を外す。

ロイ「まあ、いいだろう。あの者はSILEN(シレン)に任せるつもりだ」

SILENとはサキとレオンのチームのことである。
名前の由来は、SakIとLEoN→SILEN(命名はサキ)

セリーナ「サキとレオンにですか!?
     ・・・確かに、今は手が空いていてあの者を倒せる実力の持ち主は・・・
     サキだけでしょう・・・」

自分自身を納得させるようにつぶやくセリーナに、ロイは苛立ったように告げる。

ロイ「それより、用件はそれだけかね?」

セリーナは慌てて本来の用事を切り出す。

セリーナ「実はこの報告書についてですが・・・・・・」

 

セリーナを退出させ、独りきりになったロイは微動だにせず、じっと佇む。
考え込んでいるかのようにも見えるが、その内心を窺い知る事は出来ない。
・・・と突然、極めて小さな声でつぶやく。

ロイ「仮にサキが敗れる事になっても・・・ククク・・・邪魔者候補が減るだけだ・・・」

忍び笑いは次第に、さも愉快そうな哄笑となって部屋中に響いていく。
だがそれは、とても暗い・・・陰惨(いんさん)な笑い方であった。
司令のデスクの背後、壁一面に【体全体を鎖に縛られれて遠吠えする狼】のレリーフが飾られている。
見るものに畏敬の念を抱かせる程、見事な造詣である。

哄笑する司令を背後から見つめる狼のレリーフ、その瞳にはめ込まれた紅い宝石が、
次第に不気味な輝きを増していった・・・

第四話「護衛者」(ガーディアン)に続く


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