The THING beyond DEATH

第5話「Sacred Ambition」 〜 暗躍者は笑う 〜

心地よい天気、心地よい気温。心地よく耳に入ってくる店内BGM。
喫茶店の奥の席でまどろんでいたレオンは、ウエイトレスの声かけで目覚めた。

「お客様。お知り合いの方からお電話が」
「お知り合い?」
受け取った受話器から、かん高い怒声が響き、レオンは狼狽した。

「うわっ……大きな声だすな、セリーナ。なんで俺の居場所が分かる?」
『フェンリルをナメないで。貴方がどこにいたってお見通しよ。』

 封冠のGPSも病院からも、全ての痕跡を消したはずなんだが……。レオンは自分が籍を置く組織の力に、若干の目眩を覚えた。

『おとなしく病院に居なさいと言ったでしょう! 貴方、満身創痍なのよ?』
「分かってる。でも、外に出たかったんだ……病室は息苦しくてかなわん」
『まぁ……いいわ。私の方から病院に見舞いに行くついでに、色々聞きにいこうと思ったんだけど。フェンリル内の方が都合がいいわ。もう動けるなら、私のオフィスまで来て』

 コーヒー一杯をそこそこに、喫茶店を出た。天界の空を照らす、太陽の光がレオンのまぶたを刺す。新鮮な空気を吸い込み、俺は生きて帰ってきたのだ、と実感する。
ここは娯楽の世界。守護天使たちの憩いの場所として存在する世界で、人間界に模して、レオンが入っていたような喫茶店、レストランなどの施設も存在する。

病院の寝床に居るより、こうして外に居る方が、生の実感が強い。起き上がれるようになって、早々にドクターの制止を振り切り病院を抜け出したのも、こうして生の充足を感じたいからだった。
 日光を全身に浴びながら、レオンはわざと遠回りするように役所の世界の各所をぶらつき、フェンリルのオフィスである天界裁判所まで向かう。

 サキは……まだ意識が戻らず、病棟に居る。
昏睡状態というわけではない、意識の回復に必要なまでの、体力が体に戻っていないのだ。あれだけ連戦を続けて消耗したこともあるし、なにより封冠の開封がまずかった。不完全な状態でフルパワーを出したため、その反動が今になってサキを苦しめている。医師の判断によれば、体力さえ戻れば必ず意識は回復する、と言っていた。それを信じるしかなかった。


Otogi Story Index - シリーズ小説 - P.E.T.S.[AS]