きよく!ただしく!!

元六・ヱ戸時代編 第壱話「時代劇だよ!全員集合!!」

年明け早々の大坂の街。
ここは多くの人たちが生活を共にしている貧乏長屋。
その一角に仲睦まじい兄妹が住んでおりました。
兄の名は千兵衛(せんべえ)。
近辺では有名な腕利きの飾り職人であります。
朝早くから夜遅くまで七つ道具を持ち、
週に数本のくしやかんざしを作っております。
そして、千兵衛と共に暮らしているのが妹のきよであります。

きよ「ふっふふぅ〜〜ん♪♪」
千兵衛「どうした、おきよ?えらく楽しそうじゃないか。」
きよ「だって、とうとうお兄ちゃんとホンマの兄妹役ができんねんもん♪」

ガクッ!!

千兵衛(千田)「き、きよちゃん・・・そういうのは今言うんじゃなくて
         後で言ってよ。それなりに雰囲気出してるからさ、ね。」
きよ「テヘヘ・・・ごめんね、お兄ちゃん。
   さ、朝ご飯できたで、お兄ちゃん。一緒に食べよ。」
千兵衛「よし、そんじゃ朝ご飯にしよっか。」

こうしていつものごとく、二人でちゃぶ台を囲む千兵衛ときよ。
と、そこにいつものようにやってくる者がいます。

☆☆☆「おっはよ〜〜、おっふたっりさん☆」

腰にさした十手もりりしいこのお方は、
同じ長屋に住む千兵衛の幼なじみの恵(めぐみ)であります。
彼女は亡くなった父親の後を継ぎ、十手持ち・・・・
つまりはおかっぴきをやっているのであります。
ま、じゃじゃ馬の彼女にはもってこいの・・・・・
シャキ〜〜ン!!ビシッ!!!
ウォッ!!

恵「一言多いんだよ、この弁士(現代風に言うとナレーター)はっ!!」

いててててて・・・
その十手本物なんだから痛いんだよ。手加減してよぉ・・・

恵「あんたが余計なこと言わなけりゃいいのよ。」
きよ「朝から何してんの、お姉ちゃん?」
恵「いやちょっとこの弁士の小森が・・・って、いや、こっちの話。」
千兵衛「朝から元気だね、恵の親分さん。」
恵「ちょっと千兵衛!あたし達だけのときは昔と同じで
  『おめぐちゃん』でいいって言ったでしょ。」
千兵衛「そうだっけ?で、今日はどうしたの?」
恵「いやさ、またアイツらがでたって朝から叩き起こされちゃったのよ。
  あんまりムカツクから与力の目を盗んでここに逃げてきちゃった。」

与力とは、現代で言う県(府)警から派遣された偉い役人で
下っ端にあたるおかっぴきたちを指揮する立場の者であります。

千兵衛「それでいいの?そんな姿親父さんにみられたら・・・」
恵「それはいいっこなし!
  確かに父さんは真面目なおかっぴきだったわよ。
  でも真面目すぎて、そのせいで早くに母さんとこ行っちゃった・・」

恵の母親は恵が生まれてすぐはやり病で亡くなっている。
恵の父は男で一つで恵をここまで育てた立派な人間である。
しかし、先だってある捕り物の最中に斬られ亡くなったのであります。
おもちゃのように十手をくるくる回す恵の顔に少し陰りが見えた。

千兵衛「おめぐちゃん・・・
    やっぱりおめぐちゃんには十手持ちは似合わないよ。
    早くそんなもの捨てて、いい人見つけたほうが・・・・」
恵「いい人って・・・千兵衛は・・・あたしのこと・・・・」
千兵衛「え・・・・・」
きよ「ぅおっほん!!!!!」
千兵衛「うわっ!!」
恵「あ・・・おきよちゃん・・い、いたの?」
きよ「ここはうちとお兄ちゃんのうちやで。
   うちがいたっておかしいことないやん。ほら、お兄ちゃん!!
   はよ食べんとご飯冷めてまうで!
   お姉ちゃんも、そんなとこっ突っ立ってないで
   上がったらええんとちゃう?お茶ぐらいはだすで。」
恵「は・・・はあ・・・・」
千兵衛「い、いただき・・ます。」

千兵衛はご飯をかきこみ、恵はお茶をすすった。

きよ「で、あいつらって誰のこと?」
恵「え?あぁ、あいつらよ。今話題の義賊集団
  『闇夜の九官鳥』のことよ。」
千兵衛「グフッ!ゴホッゴホッ!!」
きよ「何してんのお兄ちゃん。ゆっくり食べや。」
千兵衛「ゴホッ・・・ごめん。で、今度は何盗んだって?」
恵「なんでも大通りの江間屋(えまや)の倉から3両盗んだんだって。
  たかが3両でわざわざ起こされるなんて・・」
千兵衛「でも、3両だって立派なお金じゃん。」
恵「でもね、当の江間屋の主人も
  別に被害届出すつもりもないって言ってんのよ。
  3両なくったって何の支障もないって。
  でも、与力の石頭たちが『草の根分けても探しだせっ!!』って
  目を吊り上げてんのよ。
  ま、年末年始ちょっとの被害とはいえ数回も取り逃がしてんだから
  あの人たちも立場ないんでしょうね。」

そういって恵がまたお茶をすすろうとしたとき・・

???「こんなとこで油うってる十手持ちがいるんですねぇ。」

突然の声に、恵はお茶を吹きそうになった。恵「な、なな、な・・」
扉があき、この時代には珍しい丸メガネをかけた
とぼけた顔が入ってきた。
恵「なんだ、瓦版屋のよしきじゃん。おどかさないでよ・・・」
よしき「何言ってんですか。
    さっき橋のところで与力の旦那方が親分のこと探してましたよ。
    早く行ったほうが身のためですね。」
恵「マジで?!ハァ・・・・そんじゃちょっと顔出してこないとなぁ。
  じゃ、おきよちゃん、千兵衛、また来るね。」
千兵衛「いってらっしゃい。」
きよ「頑張ってや〜♪」
そそくさと恵は出て行った。


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