2人のモモ

第7話「再会・お兄ちゃん 後編」

「そういえば、名前を聞いていないよね」

 私とお兄ちゃんが初めて会った日の夕方。
 たまたま帰る道が同じだったから、商店街を一緒に帰っていたときに、お兄ちゃんがこんなことを聞いてきた。

「まだ言っていなかったっけ?」
「うん。いろいろあって、まだ聞いていないよ」
「じゃあ、1度しか言わないから、よく聞いてね」

 私はお兄ちゃんの前に立って、後ろに両手を組んで、多分、すごいいい笑顔でこう言った。

「私は、平野桃華。小学3年生だよ」

 あまりにも普通の自己紹介かもしれなかったけど、でも、最高の自己紹介だったと思う。

「桃華ちゃんか。サルのモモちゃんと一緒の名前だね」
「うん。だって、その方がたくさん好きになれるでしょう?」

 自分を好きなれるのと、モモちゃんを好きになれるのとが入り混じっていた。
 私は、人前で話すのがあまり得意じゃなかった。
 恥ずかしいのもあったけど、それ以上に他人が嫌いだった。
 親は私に自分たちのメンツのために勉強ばかりさせていたし、それ以外の人は全然優しくしてくれなかった。
 同世代の中でも、かなり浮いていたと思う。

 そんな中でのモモちゃんとの出会いは、私を変えるきっかけになるかも知れないと思ったから、そういう思いで名前から取った。
 でも、そのときの私は気がついていなかった。
 他の人にはまともに話せない私が、初めて出会ったお兄ちゃんに、普通に話していることに。

「桃華ちゃんとモモちゃん、か。じゃあ、僕は2人のモモちゃんと一緒にいることになるのか」
「そうだよ。お兄ちゃん、幸せ者だよ!」

 お兄ちゃんの手を取って、人懐こい笑顔を見せる。

「改めて、よろしくね、お兄ちゃん!」

 楽しくて、ちょっと心地良い日々の始まりを告げた。


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