2人のモモ

第6話「再会・お兄ちゃん 前編」

「ずいぶんと、懐かしい夢だったな」

 朝日がまだ沈んでいる時間に目が覚めた私は、ラナを起こすことなく、非常口から外に出た。
 外の空気を吸いたいというのと、1人になりたかったのとがある。
 私はあまり昔のことを覚えていない。
 それは、自分で昔の記憶を消したからだと、医者からは言われた。
 実際には、その通りだった。
 モモちゃんとラナが死んで、お兄ちゃんまで私から離れてから、更正するまで、私はほとんどの記憶を失った。
 ただ覚えているのは、お兄ちゃんに対する憎しみ、苛立ちだけ。
 私としても、そんな記憶は無くしたいと思っていたから、多少は助かっている。
 あまり良い思い出じゃないのは、残しておくものじゃないからね。

「さてと、そろそろ戻らないと。ラナは朝が早いから」

 私は大きく背伸びして、また非常口からホテルの中へと入った。
 そのときだった。

「ご主人様…」

 ラナが、目の前に立っていた。
 この時間は、どんなことがあっても寝ている時間なのに、どうしたんだろう?

「動物さんが、泣いているの」

 ラナの共鳴反応。
 動物が危機に陥っているときに感知する、ラナの特殊能力の1つ。
 過去にも同じようなことがあって、1匹のウサギを助けた事がある。
 だから信用できる。

「近いの?」
「うん。すごく、近いの。この反応は、ワンちゃんです」
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「私も行きます」

 私は、ラナを背負って感じた場所へと移動する。
 まだ半分以上眠っているラナを引っ張って走るよりも、こうしたほうがいくぶんか早いと思ったからだ。
 ほどなくして、私たちは現場に着いた。
 そこには、ラナの言ったとおり、まだ小さな子犬が倒れていた。

「大変、すごく衰弱している」

 ぱっと見ただけだけど、すぐに治療しないと死んじゃうぐらい衰弱している。
 とはいえ、ここは私が知らない土地。
 どこに動物病院があるかどうかなんて知らない。
 でも、早くしないとこの子が危ない。
 一体、どうすれば…。

「あの、どうかしましたか?」

 私が悩んでいると、後ろから新聞を両脇に抱えた女の子が近づいてきた。
 かすかに覚えている。
 確か、お兄ちゃんのところにいた守護天使だ。

「この子犬が危ないの。でも、私はここの人間じゃないから、どこに動物病院があるか、わからなくて」
「アタシ、いい動物病院知っているよ。そこは24時間営業だから、安心だよ」
「じゃあ、案内して。ラナ、しっかりあんたはホテルに戻ってなさいね」
「はい。気をつけて」

 ラナをその場に残して、私は子犬を抱きかかえて、女の子のあとについて行った。 


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