夢追い虫カルテットシリーズ

VOL.48「天使の里帰り」

「めいどの世界第8サポートチーム」とは、一般の守護天使やその見習いがきちんと活動できるように支えたり、迷える動物の魂を「めいどの世界」に導いたりするのが任務であり、大体の時間を「めいどの世界」や他の守護天使のために費やす。
しかし、彼女たちにも「ご主人様」と呼べる存在はいた。ただ、仕事の忙しさゆえ、なかなか会う時間は捻出できずにいた。
そんな彼女たちにも、ご主人様と会うチャンスは一応存在する。年に一回ある、5日間程度のまとまった休みを取れる時期である。
今回は、「めいどの世界第8サポートチーム」メンバー、「ドクガのゆうき」にスポットを当ててみよう。

その前に、ゆうきのご主人様がいかなる人物か話さなくてはならない。
ゆうきのご主人様の名は「大杉小太郎」と言う。彼の性格を一言で表すと「優しすぎて損をするタイプ」である。
現にその日も…

小太郎「そうか…。お前ら付き合うのか…。」
友人「わ、悪いな…。何か略奪愛みたいになっちゃって…。」
小太郎「いや…。おまえらお似合いだよ…。それにこれからも僕たちの関係は変わらないよ。じゃあな。」
友人「あっ…。(何でそんなに優しくできるんだよ?こっちのほうが辛くなるじゃないか…。)」

彼は友人に自分の彼女を取られてしまったのであった。それでも彼は笑顔でその友人と別れたのであった。
その帰り道のことである。

(何で僕はこうなんだろう…。本当は辛いのに笑顔を見せてしまう…。ああ…。)

彼女を取られたことに対する辛さと、それでも笑顔を見せてしまう自分の性格に対して悲しみを覚え、小太郎はしょんぼりとした気持ちで街を歩いていた。
と、そこに

ゆうき「どうしたのか?」

ちょうど休暇期間中のゆうきが声をかけてきたのであった。
無論、ゆうきは小太郎が自分の「ご主人様」に相当する人間であることは分かっていた。それゆえに彼女も小太郎に声をかけたのであった。
しかし、小太郎はそのような事情を知る由もなかった。というわけで、小太郎はゆうきのことを「よく分からない少女」程度にしか認識できなかった。

小太郎「君は誰?とりあえず君には関係ないと思いますよ。」

突然知らない少女に声をかけられ、びっくりした小太郎は思わず突っぱねた態度を取った。

ゆうき「あたしは守…。」

突っぱねられたゆうきは思わず「あたしは守護天使だ。」と言いかけた。しかし、すぐに

(待てよ、今そんなことを言っても信じてはもらえまい。)

という考えが頭をよぎった。そこで、ゆうきは関係ない人間のふりをしてのアプローチを試みた。

ゆうき「いや。あたしは通りすがりの人間に過ぎない。しかし話を聞くことはできる。何か言いたいことはないのか?」

普通、いきなりそのようなことを言われても他人に自分についてのことを話しはしないであろう。しかし、その時の小太郎は色々な思いでもやもやしており、かなり不安定な精神状態であった。
そこで、小太郎はゆうきに対して、自分の彼女を友人に取られてしまったこと、その友人に対して笑顔で自体を受け入れたふりをしてしまったことなどを洗いざらい話したのであった。

ゆうき「そうだったのか…。あたしに何かできることはないのか?あなたについて行っていいか?」

小太郎の話を聞き終わると同時に、ゆうきはこのように提案した。
しかし、見ず知らずの少女にいきなりそのようなことを言われても普通は怪しむものである。それは小太郎も例外ではなかった。

(うーん…。確かにこの娘はかわいいな。でもいきなりそんなこと言ってくるなんて…。何か裏でもあるのかな?それに口調も変だし…。)

そう思った小太郎はゆうきの提案をやんわりと断った。
そこで、断られたゆうきは別の提案を試みた。

ゆうき「そうか…。ではまた会うというのはどうだろうか?」

その提案には小太郎も心を動かされた。

小太郎「う…。」
ゆうき「イヤか…?」(柄にもなく潤んだ目で頼み込んでいる)
小太郎「イヤじゃ…ないけど…。」
ゆうき「そうか。では明日の朝10時、この場所で会おう。」
小太郎「…分かりました。そうしましょう。」

結局2人は再び会う約束をし、別れたのであった。

翌日から、2人は時間を作ってはデートを重ねていった。(ちなみにこの時期、小太郎も夏休みだったので時間がないわけではなかった。)
初め、小太郎はゆうきの独特の口調や態度について行きあぐねる場面も多かった。

(何なんだこの娘は…?)

しかし、デートを重ねるうちにゆうきの見せる一瞬のかわいさや小太郎に対する想いに心を惹かれていった。
例えば、2人で食事をした時である。

小太郎「おいしいですか?」
ゆうき「…おいしい。」
小太郎「そうですか。それは良かった。」
ゆうき「小太郎さんと…一緒だと…何でも…おいしく感じる…。」(さすがに「ご主人様」と呼ぶことはできないようである)

そのとき、ゆうきははにかんだような様子で非常にかわいらしい笑顔を見せた。

(か…かわいい…。)

そのゆうきの様子に、小太郎は胸がきゅんとなるのであった。

そして、いよいよゆうきの休暇が終了する前日。ゆうきは思い切って小太郎にたずねた。

ゆうき「今日…小太郎さんの…部屋に行っていいか?」

思わぬ質問に、小太郎は焦った。

小太郎「い、いや…それは…。」

しかし、結局…

小太郎「分かった。いいよ。」

承諾したのであった。
そして、小太郎とゆうきは小太郎の家でゆうきの手料理を食べたり、一緒にゲームをしたりして楽しんだ。
楽しい時間はすぐ過ぎる。あっという間に夜がやってきた。

小太郎「じゃあ夜だから、もう寝ようか。」

2人は寝たのであった。ちなみに、小太郎は年齢の割に奥手なところがあるので、ゆうきに対していやらしいことをしようとはこの段階では全く考えていなかった。
それからしばらくして。ゆうきは一人目覚めた。そして熟睡する小太郎の寝顔のそばに座った。

(ご主人様の寝顔…。このまま2人で暮らせればどれだけ幸せだろうか…。いっそこのままサポートチームの職をなげうっても構わないのかもしれない…。)

ゆうきはそんなことを考えたりもした。しかしその時、ゆうきの耳にある声が入ってきた。

動物霊「ご主人様…。わたしはこれからどうすればいいのですか…。うっうっ…。」

それは不幸な死に方をし、現世を彷徨う動物霊の声であった。
その声を耳にし、ゆうきは気づいた。

(あたしはきちんと成仏し、今またご主人様と会うこともできている…。しかし世の中にはそれすらもできない動物霊がたくさん存在する…。そういう動物霊のための「サポートチーム」ではないか…。もうこれ以上不幸な動物霊を増やしてはいけない…。)

ご主人様といつも一緒ではなくても、自分は幸せであり、またその幸せを分け与える使命を帯びているということを。

(よし、あの動物霊を「めいどの世界」に連れて行こう。休暇明け最初の仕事だ。)

そこで、ゆうきは部屋に置き手紙を残し、その後動物霊を伴って「めいどの世界」へと向かうのであった。

ゆうき「ご主人様に恩返しがしたいのか?ではついてくるがよい。」
動物霊「は…はい!」

そして朝。小太郎は目覚めた。

小太郎「あ…あれ…?」

小太郎は、ゆうきが部屋にいないことを訝しがった。しかし、すぐにテーブルの上の置き手紙に気づいた。

小太郎「手紙だ…。『私は事情で遠い世界に帰らなくてはならない。しかし私はあなたのことをずっと見守り続ける。あなたに大きな幸せが訪れるように…。 かつてあなたに大きな思いやりと優しさを分けてもらった者より』」

通常の感覚で言えばこの置き手紙の文面はかなり謎に満ちたものである。ゆえに小太郎は初め混乱した。しかし、その混乱はやがて感謝の気持ちへと変わった。

(最後まで不思議な女の子だったな…。でもありがとう…。僕はこの何日間かすごく楽しかったよ…。)

一方その頃、ゆうきは動物霊を「めいどの世界」へ連れて行ったところであった。

ゆうき「さあ…これからはここでがんばるがよい…。」
動物霊「はい!」
ゆうき(ご主人様…。とうとう「ご主人様」と言うことなく去ることになってしまった…。でも会えてうれしかった。あたしはこれからも元気でやっていくよ…。)

これからも「サポートチーム」のメンバーとしてがんばっていくことを心の中で誓うゆうきであった。

おわり


ほぼ5ヶ月ぶりくらいに書いた新作です。どうもスランプが来たようです。でもこの作品の出来はまずまずいい感じではないかと思います。
ちなみに、一番苦労したのはゆうきが「めいどの世界」に帰るきっかけをつかむところです。根拠がなかなか思いつかなかったのです。


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