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OtogiWars外伝 二人の戦乙女(ヴァルキュリア)

「はぁ!」

サキの剣が使い魔を一刀両断する。

「……これで終りね……取りあえずは、だけど……」

ここは役所の世界……オフィスビルが左右に立ち並ぶ大通り。
だがこの場で動く物はサキ以外にはいない。
普段なら、この時間は仕事帰りで娯楽の世界に繰り出そうという者達で賑わっているが……ここは今、戦場であった。

ふと前方の路地から殺気を感じた。サキは下ろしていた剣を再度構える。
路地から飛び出して来たのは、セリーナであった。

「サキ!? 無事なの!? って、見れば分かるわね」
「……ええ……私は平気……」

緊張を解き、剣を下ろすサキ。
サキの周囲には、惨殺された使い魔達の死体が一面に広がっていた。
ほっとしたように、だが忌々しげに吐き捨てるセリーナ。

「全く……キリが無いわ! 司令も司令よ! この一画をわたくし達だけで守れ、だなんて……」

サキはじっと考え込んでいる。
そして何か決意したように口を開く。

「……やはり……私が直接……」
「無理よ。奴等をどうにかできるのは『七曜の力』を持つ者のみ……司令はそう言っていたわ」

きっぱりと断言するセリーナ。
自分の力だけではどうにもならない……その現実がサキに苛立ちを募らせる。

「……歯痒いわね……」
「キシャァァァァァ!!」
「……クッ……いつの間に……」

だが、サキが剣を振るうより早く、その空から降ってきた使い魔の眉間に風穴が開く。
硬直したように、サキの足元に落下する。
その使い魔は2度3度手足を痙攣させると、そのまま動かなくなった。

『サキ! ぼうっとしている暇は無いぜ!』

レオンの封冠通話が聞こえてきた。
スナイパーとして戦っているレオンの狙撃であった。

「そうよ。レオンのいう通り。今、必要なのは時間。その為にわたくし達がしなければならない事は……」

遠くから地響きの音が聞こえて来る。
その音を聞きながらも、セリーナはサキに諭すように言う。

「少しでも多くの敵を足止めする事、そして……生き延びる事!!」
「……了解……したわ……」

地響きが一段と大きくなり、無数の使い魔達が向かってくるのが確認出来た。
だが、二人に、離れた場所で狙撃の機会を狙っているレオンを含めて三人に臆した様子は見られない。
それぞれの剣を再び構えるサキとセリーナ。

「ふう……休憩は終りって事ね」
「……ええ……」

サキとセリーナ、二人の戦乙女は不敵に微笑み合うと、敵の群れに突進していった……

 

 

 

美しくも凄惨、力強くも繊細な、そう表現するに相応しい二つの剣が、赤い旋風と化して縦横無尽に舞っているかのようだった。
ぴったりと息の合った二人に付け入る隙は無い。
対して、使い魔の動きは鈍い。
随所で指揮系統が寸断され、それぞれが何の連携も無く戦っているのだから。
そして、周囲を十重二十重に包囲されながらも使い魔達に多大な出血を強いている二人の守護天使の会話は、悲壮とは程遠い物であった。

「どう? わたくしは300まで斬ったのは数えていたのだけれど……」
「……私は500までは数えていたわ……」
「ふふっ、律儀な事……ねっ!」

セリーナは飛び掛ってきた使い魔の首を切り飛ばす。

「……そうなの……? ……はぁっ! ……よく分からないのだけれど……」

サキも口を動かしながらも剣を一閃させる。その剣は使い魔の胴を両断していた。
二人が剣を振るう毎に、敵は確実に戦力を減らしていった。
そして空中から攻めかかった一部の使い魔は……

「グギォゥェ!!」
「ギャァァ!!」

レオンの狙撃によって次々に打ち落とされていた。

「ふん、動きが直線的すぎるんだよ!」

3人の作戦は、ある意味古典的な物だった。最初にレオンが指揮官らしき者を狙撃して指揮系統を破壊、その隙にサキが大いに暴れる。セリーナはサキの背中を護り、また機会があったら使い魔を倒す……これを文字通りの『阿吽の呼吸』で決めたのだ。
深い信頼感で結ばれた3人だからこその芸当であった。
3人がここまでの戦果を上げる事が出来たのは、3人の力量もさることながら、作戦が図に当たり、使い魔達が烏合の衆と化したからであった。
そして唯一の懸念材料である『上空からの攻撃』は、レオンの狙撃で全て打ち落とされ、阻止されていた。だから、サキとセリーナは地上の敵だけを気にしていれば良かったのである。

 

 

 

「タッ!」
「……はっ!」

セリーナとサキの剣が、それぞれ敵を一刀両断する。もうどのくらい、こうして剣を振るっていただろうか……二人の時間の感覚は既に麻痺していた。
敵は減ってはいるはずである。だが……

「本当に、キリが無いわ……しかもさっきから敵が増える一方ような……」
「……いい加減に……して……欲しいわね……」

いくら烏合の衆と言っても、その膨大な……文字通り地平を埋め尽くす程の敵の数そのものが、確実にサキとセリーナの体力を削いでいった。
倒しても倒しても一向に衰えない攻撃……体力と精神力の限界が近づいていたのだ。
いくら一騎当千といってもそこは女性、持久力ではやや不利であった。
そしてレオンの援護射撃が先程から途絶えている事、これも二人の不安を増幅させていた。
その不安感が感覚を鈍らせたのだろうか、ビルの屋上伝いに密かに忍び寄る敵に気が付くのが遅れた。
そして、その遅れが致命的な物になろうとしていた。

「ああ!!」
「……っ!! ……しまった!!」

だが、二人の肌をその爪が切り裂く事は無かった。
二人を狙って屋上から飛び掛って来た2匹の使い魔は、横殴りの鋼鉄の暴風……テレポートで出現したレオンの、至近距離からのサブマシンガンの乱射によって打ち落とされていた。
そして迫って来ていた使い魔達を、サブマシンガンの乱射で薙ぎ払う。

「援護射撃を途絶えさせてすまん!!」

その言葉とレオンの姿に、ほっとしたように目を輝かせる二人。

「……感謝……するわ…… ……??」
「助かったわ!! ……って誰よ!? 後ろに背負っているのは!?」
「話は後だ! ようやく撤退命令が出た!」
「そうじゃ! 急ぐのじゃ!」

サキは不思議そうな、セリーナは不審げな目をレオンが背負っていた小柄な男性守護天使に向けたが、構わずレオンは二人の戦乙女の腕を掴む。
そして、一挙にテレポートで飛んだ。
現在の前線基地、『めいどの世界』へと……


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