死の先に在るモノ

第3.5話・断章「敵対者」

PETSの世界を構成する主な世界である、めいどの世界としつじの世界、
そしてその中間にある緩衝地帯・・・
その緩衝地帯は公園・図書館・売店等の娯楽施設があり、
守護天使同士の出会い・憩いの場を提供している。

一方で、住人を管理する為の役所や裁判所・警察といった官公庁、その本部もここにある。
公には正式名称があるらしいが、正式な名前で呼ぶ者はほとんどいない。
大抵の者は通称で呼んでいる。
公園を中心とした、憩いの場を『娯楽の世界』、
役所のあるエリア一帯を『役所の世界』と・・・

役所の世界・・・
公安関係の施設が集中する、一般の守護天使達が出来ればお世話になりたくない一角、
その内の、とある建物の一室に物々しい警備体制がとられていた。
そこでは扉は堅く閉ざされ、『関係者以外立ち入り禁止』の札が掛けられ、
さらに、屈強そうな警備員が2人・・・威圧するように立っていた。

窓の無いその部屋は、10m×5m程の広さだろうか。
長方形のテーブルを囲んで12人程の人物がいる。
上座に議長役と思われる女性が座り(議長から見て)右には男性が3人、左には女性が3人、
そして末席には、眼鏡の、怜悧(れいり)な瞳をした中年の男が座っている。
そして部屋の四隅には、屈強そうな警備員が、それぞれ控えている。
現在は最も上座に近い初老の男性が、起立して報告をしている最中であった。

初老の男「・・・となっております」
議長役の女性「ご苦労さまです、それでは・・・」
中年の男「フフフ・・・」

議長の発言を遮るように末席の中年の男が馬鹿にしたような含み笑いをもらす。
それに対して初老の男の隣の壮年の男が激昂する。

壮年の男「貴様!何がおかしいのだ!!」
中年の男「ずいぶんと無駄な犠牲を払ったものですなぁ、くくく・・・」
壮年の男「むっ、無駄だとぉ?!」

怒りのあまり、言葉に詰まった壮年の男を見て、中年の男がさらに得意げに言葉を続ける。

中年の男「呪詛悪魔の一匹くらい、我々に任せれば良かったものを・・・」
壮年の男「口を慎め!貴様ら死神の助けなどいらんわ!!」

初老の男と議長役の女性が強い調子で2人をたしなめる。

初老の男「やめるのだ!2人共・・・大人気無い・・・」
議長役の女性「2人共、ここは口論の場ではありませんよ」
壮年の男「は、も、申し訳ありません!長官!」
中年の男「失礼いたしました・・・メガミ様」

壮年の男は恐縮して、中年の男は倣岸で慇懃(いんぎん)な口調を崩さず、謝罪する。

メガミ様「それでは、あなたの意見を聞かせてください」

と、中年の男に発言を促す。
壮年の男は悔しそうに中年の男をにらみつけ、初老の男はやれやれといった感じで着席する。
中年の男は2人を全く意に介す事なく、大儀そうに立ち上がると説明を始める。

中年の男「済んでしまったことを如何こう言っても、仕方ありません。
      人間界には『こぼれたミルクを嘆いても無駄だ』という諺もあることですし・・・
      問題は残された手駒をいかに有効に活用するか・・・でしょう」

再び、壮年の男はテーブルを叩いて激昂する。

壮年の男「我々ドミニオン・フォース(以下D.F.)は部下を手駒として使い捨てるような、
      冷酷・非情な、貴様ら特務機関フェンリルのような組織では、決して無い!!」

そう、この会議は守護天使達の安全保障に関わる者達の会議であった。
秘密警察的な意味合いの強い「特務機関フェンリル」・・・
一般警察的な意味合いの強い「ドミニオン・フォース」・・・
秘密警察と一般警察の仲は悪いというのが相場であるが、
「フェンリル」と「D.F.」・・・当然両者の関係も多数派に属していた。
最も上座に近い席の初老の男がD.F.長官、隣にいる壮年の男はD.F.の警備部長である。
メガミ様以外の他の参加者も皆、公安関係の者であった。
そして末席の、怜悧な瞳をした中年の男が特務機関フェンリルの司令官であった。

その特務機関司令は極めて慇懃に警備部長に言葉を返す。

特務機関司令「現実を見て下さい。あの程度の者に苦戦・・・いや、
         苦戦どころか全く歯が立たず、奴を、ガズーを倒したのは・・・
         元呪詛悪魔と見習いというじゃありませんか?」
警備部長「な、何故・・・それを・・・!」

警備部長は顔色を無くし、特務機関司令は得意げに、そして哀れむように薄笑いを浮かべる。

特務機関司令「フフフ・・・我々の情報収集能力を甘く見てもらっては困りますな・・・」
メガミ様「結論を手短にお願いします」

この会議の参加者の何人かは、メガミ様の口調に苦々しいものが混じっていた事を感じていた。
さすがの特務機関司令も、その事を感じたのであろう。
そこまで言われては結論を言わなくてはならない。表情を引き締める。

特務機関司令「ともかく、事後処理に必要なのは戦士ではなく役人でしょう?
         その程度なら、D.F.のメンバーで充分のはずです。
         問題は護衛です。しかし今回は敵の能力が判っています。
         それに対応できる戦力を保有しているのは、我々のみです。今現在は」
メガミ様「フェンリルの情報によると、敵はかなりの力量の持ち主のようです。
     そして、残念な事にそれを阻止できる戦力は潤沢とはいえません。
     今回の護衛任務に関しては、フェンリルに任せるという結論で・・・よろしいですね?」

形の上では同意を求める発言であったが、それは事実上の方針決定であった。
それが分からない警備部長ではない。
他の参加者も、不承不承ではあるが、決定には従う旨を告げる。
本来ならその任に就いていたはずの警備部長の面目は丸潰れであった。
はらわたが煮え繰り返る想いを辛うじて抑え、確認する。

警備部長「くそ、仕方ないか・・・
      だが!護衛の任務は果たせるのであろうな!?」

渋面で精一杯の脅しをかける警備部長に対して、
特務機関司令は既定の事のように冷淡に切り返す。
 
特務機関司令「ご心配なく・・・その為のフェンリルです」


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