P.E.T.S[AS]

第5話「温泉旅行」

あの後、私たちはそれぞれ自由行動という形になった。
ロックと真純先生は旅館内ゲームコーナーへ、ティコは自室に戻っていった。かすみちゃんは一人で旅館内を探検である。
さて、私はどうしたものかと旅館のロビー付近をぶらついていると、ロビーの穏やかな黄色い照明と境界線を描いている、白い蛍光灯で運営されている一角へと足が向いた。

そこは私たちの自室と同じくらいの面積の、売店だった。壁際とその途中に白い棚が並び、珍しいおみやげの品で飾られている。棚の背がみんな低いのは、比較的小規模な店内を出来る限り広く見せようという工夫だろうか。全体的に白っぽい店のレイアウトも、圧迫感の低減に貢献している。
なんとなく棚にある品物を物色していたら、その棚の向こうに見覚えのあるおかっぱ頭が見えた。
声を掛けてみたら、それは案の定、かすみちゃんだった。

私「かすみちゃん、おみやげ探してるの?」
かすみ「あ、美月さん。えっと、友達に何か買っていこうかなぁと思って……」

棚から伸び出た金属製の棒にぶら下がっているたくさんのキーホルダーを物珍しそうに眺め、かすみちゃんは少し笑みをこぼした。

かすみ「色々あるなぁ……。でも、みんな500円か……。
     ちえこちゃんと、みかちゃんと、あすかちゃんと、さきちゃんと……。ちょっと足りないなぁ」
私「少し出してあげようか?」
かすみ「え! そんないいですよ!
    旅行にただで誘っていただいて、おみやげ代まで出してもらうなんて……。
    それに、こういうのって、自分で買わないと意味がないから……」

そういえばそうだね。私ってば、失態……。

かすみちゃんの礼儀正しさというか、真面目さには本当に感心する。ご両親の教育の賜物だろうか。あるいは、よいさで同年代の子達よりも早めに社会学習をしている事が大きいのかもしれない。
久々に羽を伸ばす事ができた看板娘は、どことなく落ち着いて今の旅行を楽しんでいるように見える。最初に会った時のあのあがりようと言ったら見ている方がはらはらしたが、今ここまで彼女をゆったりとさせているのは、時間の経過の賜物なのか、この旅行という体験からなのか……。
そんな事を考えながら脇で見ていた私に、かすみちゃんは小さな声で話しかけた。

かすみ「あの……聞きたい事が……」
私「なあに?」

かすみちゃんは少しもじもじしていた。やや俯き加減で、私の顔色をうかがう。こうしてみると、まるで自分が母親になってしまったような気がする。彼女は聞きたい事をうち明ける代わりに、こんな事を言いだした。

かすみ「あの……今から一緒に、お風呂入りませんか?」
私「今からって、二人で?」


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