黒猫は夏が嫌いなんです。

第4話「いつからっていうか元からバトルモノじゃないですかね」

 放課後。

「全く。衝撃の転校生の次は校舎裏の呼び出しか。いつから学園バトル漫画の登場人物になったんだ私は」
「そう面倒そうに嘯かないでよ、私たちだって面倒なんだから」
「……なら呼び出しなんてしてくれるなよ」

 はあとため息をついて嘯いた私に返答したのは、クラスでも男絡みの噂——クラスの男子全員をタラシこんでたとか、セフレが他校に何人もいるだとか、そんな感じの——が絶えない女生徒だった。
そして、その周囲には彼女の何なのか大柄な男子がひぃ、ふぅ、みぃ……七人。うちのクラスだけでなく他のクラスもいる。大方彼女の恋人(しんじゃ)あたりだろう。

「で、一応訊ねておこうか。何が目的だ? 瑠依が目的だとかいうなよ」

 その瑠依は帰宅部の八艸と一緒に下校した。私が付き添いを頼んだのだ。因みに朱は部活。
不穏な空気を感じつつも飄々とそう問うと、緩いカールのかかった髪の女子(名前? あー……覚えてない)はふっと余裕の笑みを見せて答えた。

「その通りよ。流石、見かけによらず男タラシの剣道部の主将さんは察しが良いわね」
「お前に言われたくはないな。それにあれには色々とワケがあるんだ」
「ワケ? どうせ駆け落ちみたいなくだらないオチでしょう? そんなことより、九さん、あの転校生……私に譲ってくれない?」
「……、はぁ?」

 まるで瑠依が私の所有物のような物言いだ。不快感を覚えて眉をひそめると、彼女はいかにも傲慢そうな素振りで腕を広げ、にっこりと笑んだ。

「そう。いくらだせばいいかしら? 千? 五千? そんな安い男じゃないわね。五万、いえ、七万も出せば満足かしら?」
「話を勝手に進めるな。彼は私の所有物じゃない、譲る譲らない以前の問題だ」
「違ったの? 彼、私の好みなのよ。だから欲しいなぁって思ったんだけど……どうしてもだめ?」

 まるで子供だ。欲しいものはなんでも手に入ると思っている子供の目。……頭の弱い単純な男ならばその上目遣いでオトせるだろうが、私には何の効果もない。
不快感を露骨に表情に表し、私は半ば踵を返しつつ突っぱねた。

「答えは変わらない。NO、だ。手に入れたいのなら自分で彼に言ってみればいい。私は別に止めないよ」

 そして完全に背を向ける。このとき胸の隅に居座った妙な後味の悪さは何なんだろう。

「……そう。残念ね。なら貴方たち、出番よ」

 背後から、複数——三人の気配。背負っていた竹刀を瞬きの間に抜き放ち、私は振り返り様三人を一刀のもとに薙ぎ払った。こういう展開になるだろうとは薄々思っていたから反応も速かった。

「甘い。一応クラスメートもいることだし気は進まないが……容赦はしないよ」

 父と叔母、そして叔父にも仕込まれた剣術だ。剣戟で吹っ飛ばした三人が立ち上がるのに伴い、今までありったけの下心が覗いていた男たちの目が本気になった。

「一番酷い目にあわせた人には、その女を好きにしていいわよ。レイプするなりサンドバックにするなり、使い方は貴方たち次第よ」

全く下衆な女だ。この私をも物扱いか。

「生憎私はフェミニストでもなんでもないんだ、そういうことを言われたからにはお前も覚悟してもらおう」

 竹刀の切っ先を不遜な笑みで見つめる女と、七人の男子を相手に、私は凛とそう告げた。


Otogi Story Index - シリーズ小説 - 黒猫は夏が嫌いなんです。