星の導くままに・・

第一話  星はめぐり、そして出会う

 私の名前は「王星明(ワンシンミン)」星占いを生業とする祖父の代からの中国人移民、つまりは華僑です。
一時は、星見の修行のため中国へと渡り修行をしていた時期もありますが、星の導きにより、今はまた、日本に居を構えています。
私の星占いは普通の人が行うものとはちがい、生まれながらに備わった、他人の守護星を見、星の声を聞く力を礎とした特殊なものです。
そして私には他人と違うところがもうひとつあります、それは今年の晩春頃に私の前に現れた一人の少女…
少女は名を「志摩」と名乗りました。私はこの名前を聞いたとき、何か胸につかえるようなものがありました。
思い出したくはない、記憶の底に眠っていた、ある動物との出会いそして別れ…
思い出したくはない…しかし、その名を聞き、思い出してしまった、いや、思い出さずにはおれなかったその思い出を、ある不思議な星の下に生まれた男との出会いとともに語りましょう…

 それは何の変哲もないある夕暮れ時のことでした。

志摩「ご主人様…あの…荷物は私が持ちますから」

隣を歩く小さな女の子が私を気遣い声をかけてくれる

王「いや、このくらいの荷物はなんでもないよ、志摩はいらない気は遣わなくていいんだよ」
志摩「気を遣われているのは、ご主人様の方ですよ…ご主人様にお使えするのが私の生きがいなんですから」
王「いや、だがしかし、小さな女の子に荷物を持たせて、私が手ぶらで歩いているのは世間体が・・」

 いつもの会話、晩春のころより幾度となく繰り返されてきた会話、そのようなとりとめのない会話を続けているうちに公園のある曲がり角へと差し掛かった…

??「ほ〜〜ら、こっこまでお〜いで」
??「まつぉ〜〜、ナナね〜たんは速すぎるぉ〜」

元気な声、そして足音が近づいてくる…
………たったったったっ…どんっ!!

??「うわっぷ!……イタタタ…」
王「おっとっと…こら!急に飛び出したら危ないぞ、もし私が車だったら轢かれていたぞ」
??「ご…ごめんなさい…」
??「ごめんなさいだぉ…」

飛び出してきた女の子たちは七歳か八歳くらい、およそ志摩と同じぐらいの年齢に見える。

志摩「…ナナちゃん?ルルちゃん?」
ナナ「え?あ!志摩!」
ルル「あ〜!シマ姉たんらぉ」
王「ん?なんだ三人は知り合いなのか?」
志摩「え〜っと…あの…二人はね……」
??「お〜〜い!ナナ〜〜!!ルル〜〜!!もうすぐ晩御飯だって〜〜!!」

その時、少女たちの保護者と思われる青年が、声を上げながらこちらに歩いてきた。

ナナ「あ〜〜!ご主人様〜〜!!」
ルル「ご主人たま〜、ルルたん、シマ姉たんと遊びたいぉ〜」

青年は少女たちに困ったような、しかしとてもやさしげな笑みを見せてから、こちらに向き直り言った

??「やれやれ…まだ遊び足りないのかい?…すいません、お時間よろしいですか?」
王「ええ、私達は後は家に帰るだけですから、時間はまだ大丈夫ですよ」
??「そうですか、ありがとうございます、ナナ、ルルもう少しだけ遊んできなさい、志摩ちゃん二人をよろしくね」
志摩「いえ、そんな…こちらこそ……あ、ご主人様、行ってきますね」
志摩はナナたちのほうへ駆けていった。
王「すいません、志摩は少し人見知りなところがありまして…」
??「いえ、全然気にしないですよ」

青年は本当に気にしていないのだろう、志摩たちの後姿をあの優しげな笑顔で見つめていた。その優しげな青年に私は少し意地悪な質問をしてみることにした…

王「しかし、あなた子供たちにご主人様と呼ばれていましたね…」
??「え!?あ、いや、あ…あれはその…」

青年は嘘をつきにくい性格なのだろう、私の出した質問でしどろもどろになっている。

王「ふふ、すいません意地悪な質問でしたね、大丈夫ですよ、あの子達は守護天使なんでしょう?」
??「え?しゅ…守護天使のことをご存知なんですか?」
王「気付きませんでしたか?志摩も守護天使なんですよ」

そう、晩春のころから私の周りにいつもいる少女「志摩」は自らを守護天使だと名乗った…
中国にいたころに助けた、虎の「志摩」の転生体であると…

??「そ…そういえば、さっきご主人様って言っていたような…」
王「ええ、彼女は八年前、私が助けられなかった動物の守護天使なんです……あ、そうだ、申し遅れました私は王星明と申します、この町で占い師をやっています」
??「あ、そういえば僕も名乗ってませんでしたね、僕は睦悟郎です…い、今は求職中です、ははは…」
王「ちょっと聞きたいのですが、あの二人はなんの動物の生まれ変わりなんですか?」
睦「え〜っと、ナナは犬で、ルルはカエルですね、志摩ちゃんはなんの生まれ変わりなんですか?」
王「志摩は虎の生まれ変わりなんです」
睦「と…虎ですか?あんなにおとなしそうな子なのに」
王「あの性格は志摩の死因となったものに関係しているのです…」
睦「死因ですか…よかったら聞かせてもらってもいいですか?」
王「そうですね、立ち話もなんですから、あそこのベンチにでも掛けながらお話しましょうか」

そういって私は公園の一角にあるベンチを指差した。

睦「そうですねいきましょうか」

そして、三人掛けのベンチに座り私は語りだした

王「あれは今から八年前……
 そのころ私は占いや風水を学ぶため中国で暮らしていました。
より星が見えるようにと、山奥の方のとある村で、山菜などをとって生活していました。
 
ある日私はいつものように山菜をとるため山に入っていきました。
ある程度山菜を集め終わり村へと帰ろうとした折、村を虎から守るために仕掛けてあった虎バサミに虎が引っかかっていました。
しかしその虎はまだ一匹では餌も捕れないような小さな虎でした。
足を挟まれ、弱りながらも親を求めてか細く鳴いている姿を見て、私はその虎を助けずにはいられませんでした。
私はその虎を家に連れて帰り、手当てをし、祖父たちが以前住んでいたという地名から「志摩」と名づけました。
 
志摩は最初すべてのものに怯え、私の一挙手一投足にさえも怯えていました、最近になって志摩に聞いた話では虎バサミに挟まれたまま半日以上すごしていたらしいのです。
いろいろな動物がすむ森の中で動けないまま、親にも見捨てられ半日も過ごせは、怯えるなと言うほうが難しい話です。
しかし、一週間、二週間と看病を続けるにつれ次第に私の手からも餌をとってくれるようになりました。
 
ですが、一ヶ月ほどたったある日志摩の容態は急変しました、虎バサミで傷ついた傷口から感染症になっていたのです。
しかも当時住んでいたところは、車ではいけないような道を、4〜5時間歩いてようやくたどり着くような場所だったため、当然動物病院などもなく、かといって衰弱した志摩をつれて山道を4〜5時間も歩き続けるわけにもいかず、仕方なく独学で治療を施しましたが、やはり素人のできることには限界があり、容態が急変してから4日後、志摩は息を引き取りました。
それから八年、私は占いの修行に打ち込みました、志摩の死を予見できなかった自分の未熟さが…いえ、ただ志摩の死を忘れたかっただけかもしれません。
 
そして今年の春、めったに人の来ない私の住んでいた村に来た一人の占い師…いえ、あの女の人が志摩の言っていたメイドの国の女神様だったのかもしれません。
ともかくその占い師に「一度、自分の運命を真剣に占ってみなさい」と言われ、私は何年かぶりに風水や姓名占いなどさまざまな占いを用い自分を占おうとしました。
 
そして八卦盤を用いて占いをしようとしたとき、見たこともない陣が現れ、まばゆい光の中から一人の少女が現れました、少女は自らを志摩と名乗り、守護天使であること、自分があのときに死んだ虎の生まれ変わりであることを告げました、さすがに私にもその話は信じられませんでしたが、彼女の守護星を見たときにその疑念は打ち消されました、彼女の守護星は私の守護星にぴったりと寄り添い、片時も離れることはありませんでした、今までいろいろな人間の星を見てきましたが、あのような動きを見たことはありませんでした、そのことで私は彼女の言うことを信じることにしました。
そして志摩もあの占い師と同じく私に占いを勧めました。
その言葉に従い占いを続けていたのですが、不思議なことにすべての占いにおいてほぼ同じ結果が導き出されたのです。
 
「日ノ本の国、その中心へ向かえ、そこで新たな出会い、そして懐かしき出会いが待つだろう」…と
 
その占いに従い私は日本にやってきました、新たな出会いとはあなたたちのことなのかもしれませんね」

睦「そうですね、この出会いがその新たな出会いだと言うのなら、それはとても素敵なことだと思いますよ」
王「ええ、あなたとあなたの守護天使…いえ、あなたの家族達との出会いがいい出会いとなることを私も望んでいます」

そのとき、通りの向こうから、快活そうな少女の声が聞こえてきた。

??「ご主人様〜〜〜!!ナナ達いましたか〜〜〜?ミカさんが帰りが遅いってうるさくって」
睦「ああ、ごめんよツバサ…お〜い、ナナ〜!ルル〜!もうそろそろ帰るぞ〜〜!」
王「さて、じゃあ私達も帰るか?志摩」
睦「すいません、こちらがお引止めしたのに、こちらから切り上げてしまって…」
王「いえ、構いませんよ、ああ、そうだ、ちょうど日も暮れてきたので、あなたの守護星を見させてもらってもいいですか?」
睦「ええ、むしろこちらからお願いしたいくらいですよ」
王「では、目をつぶってもらえますか?……はい、そのまま意識を空に向けるような感じで…」
意識を集中した人を前にすれば、自然と空にその人の守護星が見えてくる。
王「ふむ…とても面白い守護星をお持ちのようですね、もしかしてあなたの守護天使はあのツバサと言う子も入れて12人いますか?」
睦「そういうことまで分かるんですか?」
王「志摩の星とよく似た輝きの星が12個あなたの星の周りを囲んでいますから」
睦「どのあたりに見えるんですか?」
王「肉眼では見えませんよ、もしかしたら私が見ているのは本物の星ではなく、なにか概念的なものなのかもしれませんね…」

これは以前から感じていたことだった、私の能力は守護星を見るのではなく、人の人生を星という形で見ることができる能力なのかもしれないと…

王「あなたへの大きな災厄は12の星が守ってくれます…いついかなるときもその12の星を大切にしてあげてください(ただ、気になるのがその周りを囲む強い光を放つ四つの星…何もなければいいのですが)」
睦「分かりました、絶対大事にしますよ、王さんも志摩ちゃんを大事にしてあげてください」
王「そうですね、昔のようなことはもう…」
ナナ「ご主人様、ご飯食べにかえろ〜」
ルル「ルルたん、スパゲテーがいいぉ〜」
ナナ「ルル、また言い方が戻ってるよ」
ルル「ほえ?」
ナナ「ス・パ・ゲ・ッティー、ほれ、いってみな?」
ルル「スパゲッチョ?」
睦・ナナ・ツバサ「あはははは……」
王「志摩はいい友達にめぐり合えたようだな」
志摩「…はい!ご主人様」
王「さて、では私達も帰ろうか、志摩」

日が暮れ街灯だけが照らす道を、私達は手をつなぎ歩いてゆく…
この小さな手を二度と離すまいと強く心に誓いながら…

 


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