未だ見ぬ此方の物語

――せかいが大怪我を負った少女を見かけたと同時刻――

「てゅき…」
「…すー……すー……うにゅ〜………」
「てゅき……起きなさい」
「……うー……ん?……だれ?」

そこは宝玉の夢空間……
ある理由により、転生出来ずにいる守護天使達が意識を持ったまま眠り、生活を営む空間………
てゅきの場合、受け持つ「魂の受け皿」の最低年齢が現在の彼女の年齢を
今だに上回る為、転生が困難な状態にある。
それ故に宝玉の夢空間での生活を余儀なくされているのだ。
 
どうやら「お昼寝」の真っ最中だったらしい。
てゅきの目の前には、長身で少し華奢な体つきの青年(中性っぽい)の姿があった。
どうやら起こしたのは彼(?)のようである。
 
「てゅき。君は急いで君のメガミ様の元に伝えなければならない事がある」
「くぅ…?」
「ほら、ほら。寝ぼけ眼ではいけない。しっかり起きて私のいう事を聞きなさい」
 
青年は優しくてゅきを促す。
 
「ぬ〜」
 
と、てゅきは一息ついて深呼吸をすると…
 
「………はーい。いいですよ!」
「では、よくお聞きなさい。今、君のお友達がとても危険な目に遭おうとしている」
「お友達…?」
「そう。君の近くにいた、銀色の光を持つ子だよ。今、その危険をメガミ様に教えてあげられるのは、君しかいないんだ」
「どーして?」
「私は気づいているが、私はメガミ様…いや、君以外の天使たちに伝える事ができないんだ。だが不思議な事に、君にだけは私を感じ取る事が出来るようだ。だから今、お友達を助けてあげられるのは君しかいない…」
「うーん…………」
 
てゅきは自分なりに考えをまとめている様だ。

「でもね。ぼくはまだ転生するには体があんていしていないからって、むにちゃんに言われてるからまだ転生できないよ?」
「それは大丈夫。一時的だが、君が転生出来るように私が魂の受け皿との時間軸の差分を埋めてあげよう。但し、12時間までだよ。それまでに君は宝玉に戻るんだ。いいね?」
「はーい!」
「良い子だ」
 
青年はそう言うと、てゅきの頭に手をかざす。
すると、守護天使特有の輪が浮かび上がった。
 
「ん? 君はまだ9級守護天使なのかい?」
「うん…。しっぱいばかりしてるから…」
 
てゅきはしょんぼりとしてしまった。
 
「はは、そうか…」
 
青年は静かに微笑する。
 
「それなら、私が特別に昇級試験を用意してあげよう」
「ほんと!?」
 
一気に笑顔になるてゅき。表情に忙しい娘だろう…
 
「ああ。君がメガミ様にちゃんと伝えて、お友達を助ける事ができたなら8階級への昇級を認めよう」
「うん! 約束だよ! …あれ、えーと……」
 
てゅきは名前を呼ぼうとしたがまだ聞いていない。
 
「おや? そういえば名前を教えていなかったね。もっとも、私に名前はないが…」
「そうなの?」
「ああ。私は『麒麟』としか呼ばれていなかったからね…」
「じゃあ『きりん』ちゃんだね」
「きりんちゃん? なんだいそれは?」
「だって麒麟さんでしょ? だから『きりん』ちゃん!」
 
青年はそのてゅきの言葉に首をしばし傾け、やがて…
 
「『キリンのきりん』……ふむ、愉快な響きだ…。これからはそう名乗るとしよう」
「うん! 似合うよ」
「はは、ありがとう。では、君をメガミ様の所まで送っていこう。ちゃんと伝えるのですよ?」
「うん!分かった!」
「……また、逢える時を楽しみにしていますよ……」
 
てゅきの周りがまばゆい光に包まれ、「きりん」という名をもらった青年は姿を消した…
 


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