クゥエルSS 前世編
 
今からおよそ7年前...実験用に育てられていたカエルのるるは、ご主人様と少女のもとで飼う事が許された。これは皆さんもご存知の通り。ところが、この話にはちょっとした裏があったのだ...
 
少女「ほ〜ら、るるちゃん、ごはんですよ♪」
少女が差し出すエサを喜んで食べるオタマジャクシのるる。そんな光景を物陰からじっと見つめる影があった...
 
そして時は流れ、遂にるる達カエルを実験に使う時が来た。
ご主人様「お願いします!カエルを解剖実験に使うのはやめてあげて下さい!」
少女「お願い、お父さん!るるちゃん達を助けてあげて!」
こうして、しばらくご主人様の説得が続いた。教師はしばらく考え込んでいたが、やがてこう答えた。
教師「よし、わかった。ちゃんと面倒をみるんだぞ。」
少女「それじゃあ、るるちゃんを飼ってもいいんだね!お父さん、ありがとう!」
ご主人様「ありがとうございます!」
そんなやりとりを一部始終覗いている影があったことなど、その場の誰もが知る由もなかった。その影は、とても満足気な顔をしているように見えた。
 
その後、理科実験室にて...
教師は、カエルの解剖実験をビデオで撮影し、以後の授業ではそれを見せるという方法を思いついていたのだ。本当は実験を取りやめにしたかったのだが、この学校はなぜかカエルの解剖実験に異様に力を入れているらしく、実験を取りやめるよう嘆願した先生が何人もクビにされているほどである。よって、それは出来ない相談だった。他の理科の先生にも既に話が行っており、さっそくビデオ撮影の準備に取り掛かろうとしていた。
教師「こうすれば一匹使うだけで済むからな。その一匹には悪いが、この先二度と解剖しなくてもよくなるんだ。これで......」
そう言って、箱の中から適当に一匹掴もうとするが、
教師「おっと、これはるるか。こいつを使っちゃまずいよな。他のカエルにしないと。」
娘が実に大事にしていたので、教師にも何とかるるを判別する事ができるのだ。
と、そこへ別の先生がやってきて、教師を呼ぶ。
先生「すみません、ちょっと来てもらえますか。」
教師「あ、はい、今行きます。」
教師は実験室から出ていった。それと丁度入れ違いになる形で別の理科教師がやってくる。
理科教師「おっ、カエルは既に用意してあるんだな。では...」
そう言って理科教師は、箱の中にたくさんいるカエルの中から一匹を掴みあげ、別の容器に入れた。それは、あろうことか、教師の娘が一番大事にしていたるるだった。今回はカエルが1匹いれば充分なので、他のカエルは、通りかかった生徒に逃がすよう頼んで箱を渡した。
 
理科教師がビデオ撮影の準備を始めようとしたところで、用事を済ませた教師がもどってきた。
理科教師「あ、戻ってきたんですね。では私はカメラを持ってきますので、カエルの方をお願いします。」
教師「わかりました。」
理科教師が出て行った後、容器に入っているカエルを見て教師は驚いた。
教師「こ、これはるるじゃないか!だから、これはまずいんだってば!」
慌てて他のカエルを探すが、どうやら既に逃がされてしまったようだ。
教師「まずい...実にまずいぞ!このままでは娘を泣かせてしまう。かといって今からカエルを捕まえに行っても間に合わないし...どうすればいいんだ...」
あの理科教師はこの学校におけるカエル解剖の推進派の1人で、たとえ事情を話したとしても、それなら別のカエルでも買ってやればいいじゃないか、などと言って取り合ってもらえないだろう。困り果てた教師の耳にふと何か音が聞こえた。
教師「ん?」
いや、音というより声と言った方が正しかった。それも、人間のものではない。
ゲコゲコ...ゲコゲコ...
声のする方を見ると、どこから紛れ込んできたのか、一匹のカエルが教師の前にちょこんと座り込んでいた。
教師「えっ...カエル...?何でこんな所に...?」
そのカエルはトノサマガエルだった。その目はジッと教師の方を見つめ、何かを訴えかけるかのように鳴き声を発していた。
教師「何だ?こいつ、自分を捕まえろとでも言ってるのか?いや、まさかな...」
そう言いながらも教師は、そのトノサマガエルとるるを交互に見渡す。その頭の中では、既にある考えが浮かんでいた。教師がトノサマガエルの方を見ると、そのカエルはうなずくように鳴き声を出した。まるで教師の考えを察し、それに同意してでもいるかのように...
 
数分後、解剖台の上に乗っていたのは、るるではなかった。
理科教師「おや?このカエル、さっきと違いますど、一体どうしたんですか?」
教師「え、ええ...こっちの方が大きいし、解剖や撮影がやりやすいと思いまして。」
理科教師「そうですか。では、始めましょうか。」
教師「はい。(このカエルの事は、娘には黙っておこう。もし他のカエルを犠牲にしたと知ったら泣き出すだろうからな...)」
かくして、トノサマガエルは永遠に目覚める事の無い眠りについた。
ずっと前から見守ってきた、ずっと前から想ってきた、あのアマガエルの幸せな明日を願って......
 
その後、生徒が学校に持ってきていたガンダムの本を没収した教師は、職員室でその本をちょっとめくってみた。ふと目に入った「ジムクゥエル」の文字。
教師「クゥエル...?何かカエルみたいな名前だな。どことなく勇壮な響きがする。あのトノサマガエルにつけてもよかったかな。もう遅いけど。」
ここで教師はふと思った。ビデオを撮った事によって、ここの学校ではもうカエルを犠牲にしなくてもよくなった。るるを飼う事になった娘も大変喜んでいた。だが、果たしてカエルの解剖が授業として本当に必要なのか...これで生徒が一体何を学ぶというのだろうか...クゥエルと名づけたあのカエルの事を考えると、どうしてもそういった疑問に突き当たらずにはいられなかった。
 
やがてその勇敢な魂が世界の運命を担う事になるのだが、それはまた、別の物語である...
 
To be continued...
 


「クゥエルOS」トップへ戻る