〜ノエルラントの名花たち〜 「臨時ニュース・公太子の入院」

夢追い虫カルテットシリーズ特別編
 〜ノエルラントの名花たち〜 「臨時ニュース・公太子の入院」

 

ノエルラントの後継者であるクリス公太子は実は乗馬が趣味であったりする。その日も愛馬と共に城内の野原を走り回っていた。

クリス公太子「はい、頑張れ頑張れ!」

馬を叱咤しながらも乗馬を楽しむクリスであったが、不意に目の前にカラスが現れ、不気味な軌道で飛び回り始めた。クリスの愛馬はそれに驚き、暴走を始めてついにはクリスを振り落としてしまった。

クリス公太子「うう…痛い…何かとてつもなく痛い!」

 

クリスはすぐさま病院に運ばれ、診断と治療を受けた。その結果、かなり重度の骨折であることが判明し、しばらくの入院加療を余儀なくされることとなった。
この「公太子・骨折す」の報は慢性的事件日照りであるノエルラントの新聞では一面トップで報じられ、ノエル公のもとへは各地の地方自治担当者から見舞い品が届いた。
一方、クリスの入院している病室は静かなものであった。それはクリスが落ち着いて過ごせるようにという配慮によるものであった。
しかし、2日間母であるハルヒ妃以外の見舞いがない、というのはさすがに寂しいものであった。
入院3日目のその日も病室にはクリスとりんごの皮むきをするハルヒしかいなかった。

ハルヒ妃「静かだね…。」
クリス公太子「でも、兄弟誰も見舞いに来ない、っていうのはどうなの?それはあんまりじゃないか!」
ハルヒ妃「もしかして今まで姉や妹をおもちゃにし過ぎたツケが来たのかも…。」

母のそのあまりにクールなセリフにはさすがのクリスも狼狽した。

クリス公太子「母上まで!そんな!」

しかし、その沈黙を破る者がついに現れた。

まゆり第一公女「失礼します。」

一族の長女・まゆり第一公女である。

ハルヒ妃「ああ、まゆりさん。よく来てくれました。クリスが誰も来ない誰も来ない、ってうるさくて。」
クリス公太子「母上!」
まゆり第一公女「すみません…。お見舞い品の完成が遅れてしまって。」
ハルヒ妃「うちの息子などにそんな…。」
まゆり第一公女「そんなことはありませんわ。ではお見舞い品です。」

まゆりが取り出したのはパッチワークの壁掛けであった。

まゆり第一公女「病室は殺風景かな、と思いまして。わたくしにできることはこれくらいですが、早くよくなって下さいね。」
クリス公太子「姉上…ありがとうございます…。」

その後しばらくクリスと話し込んでからまゆりは帰っていった。

 

ハルヒ妃「よかったね。お見舞いが来て。」
クリス公太子「はい…。」

クリスはちょっと感動していた。そしてその余韻覚めやらぬうちに…。

みさき第二公女「失礼します。」

世話になる機会も多い次女、みさき第二公女がやってきた。

みさき第二公女「クリスさん…。骨折、どうですか?」
クリス公太子「何とか峠は越したみたいですね。」
みさき第二公女「よかったです…。あ、これお見舞いの品です。」

そう言ってみさきは分厚い小説を数冊ベッドサイドの机の上に置いた。

みさき第二公女「入院中は退屈でしょうから…。それを読んでリフレッシュして下さいね。」
クリス公太子「姉上…ありがとうございます…。」

かくてみさきは去っていった。

 

続いてやってきたのは3人…。

ひとみ第六公女「クリス兄さま。」
みゆう第五公女「大丈夫?」
なたね第八公女「お見舞いに来たよ。」

妹であるみゆう第五公女・ひとみ第六公女・なたね第八公女である。

ハルヒ妃「ひとみ…。それにみゆうさんとなたねさんも…。」
ひとみ第六公女「すみません遅くなりまして。」
みゆう第五公女「よかった…結構元気そう…。」
クリス公太子「みんな…寂しかったんだよ…。」
なたね第八公女「ごめんなさい。」

何かばつの悪そうな3人。

ハルヒ妃「いいよ。うちの息子なんかのためにそんな顔しなくても。」
クリス公太子「母上…。」
ひとみ第六公女「相変わらずですね母さま。ところで…。」

ひとみが話を変えてきた。

ひとみ第六公女「お見舞い品があるんですよ。まずはあたしからです。」

ひとみはゲームブックを数冊ベッドサイドの机の上に置いた。

ひとみ第六公女「結構暇つぶしにはなると思いますよ。良かったら使って下さい。」
クリス公太子「ありがとう…。」

続いてみゆうとなたねである。

みゆう第五公女「あたしたち2人でクッキー作ってきたの。」
なたね第八公女「食べてね。」

そのクッキーは不恰好であったが、一生懸命作ったであろう事は伝わってきた。

クリス公太子「ありがとう…。」

クリスは3人の気遣いに感動するのであった。そして3人は帰っていった。

ハルヒ妃「何か…来はじめるとあっけないね。」
クリス公太子「ふふん、僕は公太子だからね。」
ハルヒ妃「それがいけないと思うけど…。」

 

そんなバカな会話をしていたところにやってきたのがひかり第七公女である。

ひかり第七公女「兄さま、遅れて申し訳ありません。」
クリス公太子「ひかりちゃん…。」
ひかり第七公女「折ったのは右足でしたよね?」
クリス公太子「そうだけど…。」
ひかり第七公女「分かりました。ではじっとしていて下さい。」

そう言うとひかりはクリスの右足に手をかざした。

クリス公太子「あ…気持ちいい…。」
ひかり第七公女「ヒーリングです。また機会があったらやりますね。」

ひかりはしばらく話をし、そして帰っていった。続いてハルヒ妃も時間的都合で帰っていったのであった。

かくして病室にはクリス1人が残されることになった。

クリス公太子(えーと…確かまだ来てないのは3人で…。)

 

そういう計算をしているうちに3人のうちの1人が来た。

つぐみ親衛隊長「おうクリ公!」

ケンカ友だちに近い姉・つぐみ親衛隊長である。

つぐみ親衛隊長「クリ公骨折ったんだって?残念だなオイ!」
クリス公太子「つぐみ姉…何か顔笑ってる…。」
つぐみ親衛隊長「それは気のせいだ、はははは!というわけで土産だ!」
クリス公太子「…何すか?」

つぐみが取り出したのは握力強化用グリップとアブトロニックであった。

つぐみ親衛隊長「手や上半身は無事なんだろ?だったらこれで鍛えておけな。寝てばっかだとなまるぞ。」
クリス公太子「もっと色気のあるものはなかったんすか?なたねちゃんだってクッキーくれたのに…。」
つぐみ親衛隊長「ああ?せっかく持ってきたのに…。何ならその減らず口も入院させるか、オイ!」
クリス公太子「いえ…その必要は…。」

そのやり取りはいつもと変わらぬもので、クリスも少し元気になったようであった。やがてひとしきりのケンカの後つぐみは帰って行った。

 

そして入れ替わりにやってきたのはゆうき第四公女である。

ゆうき第四公女「兄さま…。」
クリス公太子「ゆうきちゃん…。」
ゆうき第四公女「骨折か…。まあいつもあたしをおちょくっている天罰だな…。」
クリス公太子「ゆ、ゆうきちゃん…。そんなこと…。」
ゆうき第四公女「…冗談だ。おわびに見舞い品をやろう。」

そう言ってゆうきが取り出したのは「心がきれいになる本」「知的な男になるために」「性格改善への道」以上3冊の本…。

クリス公太子「ゆうきちゃん…そこまで僕のことをバカに…。」

クリスはもはや泣き顔である。ゆうきはそれを見て満足そうに微笑んだ後切り出した。

ゆうき第四公女「…それも冗談だ。本筋の見舞い品はこれだ。」

ゆうきが今度こそといった感じで取り出したのは箱である。

クリス公太子「何これ?」
ゆうき第四公女「開けてみるがよい。」

クリスが箱を開ける。すると…

クリス公太子「こ、これは!「ハニー屋(ノエル城下一番人気のスイーツ店)」で幻の商品といわれるクリームプリンと生ジュース!」
ゆうき第四公女「高かったがな…。だが安心するがよい。今回は覗きビデオ販売とかではなく真面目にアルバイトしたお金で買ったぞ。」

その言葉はクリスを感動させるに十分であった。

クリス公太子「ゆうきちゃん!僕はやる時はやる子だと思ってたよ!」

クリスは思わずベッドサイドのゆうきに抱きついた。

ゆうき第四公女「気持ち悪いぞ兄さま。」
クリス公太子「…やっぱりゆうきちゃんだ。」

そしてゆうきは帰って行った。

 

かくしてほとんどの姉妹から見舞いを受けたクリスであったが一番の憧れの存在がまだ来ない。

クリス公太子(どうしちゃったんだろ…。)

しかし、彼女はクリスを見捨てていなかった。

あすか第三公女「失礼…します…。」
クリス公太子「ああ!姉上ぴょん!やっぱり来てくれたんだね!」

姉妹最後の見舞い客、クリスが「姉上ぴょん」と慕ってやまないあすか第三公女がやってきたのである。

あすか第三公女「遅くなって…しまいましたね…。」
クリス公太子「姉上ぴょんならいつでも歓迎ですよ!嬉しい…嬉しいよ…。」

泣いて喜ぶクリス。

あすか第三公女「そんな顔…されると…。実は…今日行くかどうか…迷っていたんです…。」
クリス公太子「え?」

ちょっと青ざめるクリス。

あすか第三公女「いつも…わたしのこと…執着気味に…。でも…。」
クリス公太子「?」
あすか第三公女「わたしにとっては…たった一人の…弟ですから…。大事に…思います…。今日は…病院にも…許可を…取って…ありますから…。一晩…手を…握っていて…あげます…。」

あすかのその言葉は今までのどのお見舞いよりも効いたかもしれなかった。

クリス公太子「うう…姉上ぴょん!姉上ぴょん!」

クリスはあすかにすがるように泣いたのであった。

あすか第三公女「よしよし…。」

あすかもそんなクリスに対して優しく頭をなでるのであった。
その夜は、約束通りあすかはベッドサイドでクリスの手を優しく握り締めた。

クリス公太子「姉上ぴょん…。」(←寝言)
あすか第三公女(こうして見ると…けっこう…かわいいかも…知れません…。)

こうして病室の夜は更けて行くのであった。

おわり

 


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